救急医療

制度

救急医療の最前線:ER型救急医療とは?

近年、日本の救急医療において「ER」という言葉を耳にする機会が増えました。これは、従来の救命救急センターを中心とした重症患者向けの救急医療に加えて、ER型救急医療という新しい概念が広まっているためです。ERとは、emergency room の略語で、救急室や救急外来を指します。従来の日本の救急医療は、心臓発作や脳卒中などの重篤な症状の患者を対象としていました。しかし、近年では、軽症の患者も含めて、救急医療を必要とする人が増加しています。そこで、より多くの患者に対して、迅速かつ適切な医療を提供するために、ER型救急医療が導入されるようになりました。ER型救急医療は、北米で発展した救急医療のモデルを参考にしています。ER型救急医療では、患者の症状に応じて、診療の優先順位を決める「トリアージ」と呼ばれるシステムを導入しています。これにより、重症の患者は優先的に診察を受けられるようになり、軽症の患者も適切な診療を受けることができます。また、ERには、CTやMRIなどの高度な医療機器が整備されており、迅速な診断と治療が可能です。ER型救急医療の普及は、日本の救急医療体制の充実につながると期待されています。
けが人へ医療

救える命を守る!JPTECってなに?

日々、様々な事故や災害が発生する中で、一人でも多くの命を救いたいと願う気持ちは皆同じです。特に、事故や災害の発生直後は、適切な処置を迅速に行うことが、傷病者の生死を大きく左右します。一刻を争う緊迫した状況下において、救急隊員や医療従事者の方々は、日々、私たちのために尽力してくれています。このような状況の中、日本の救急医療現場では、「JPTEC」と呼ばれる取り組みが進められており、多くの命を救うための重要な役割を担っています。JPTECは、日本国内で発生しうる、様々な事故や災害に対応できるよう、救急隊員や医療従事者に対して、統一された知識と技術の習得を目指した教育プログラムです。今回は、この「JPTEC」について詳しく解説していくことで、日本の救急医療体制への理解を深めると共に、事故や災害発生時に私たち一人ひとりがどのような行動を取れるのか、改めて考えるきっかけを提供できればと思います。
けが人へ医療

二段侵襲説:体の危機回避システム

- 二段侵襲説とは私たちの体は、病気や怪我など、さまざまなストレスにさらされています。大きなストレスを受けた時、私たちの体はどのように反応し、時には臓器不全に陥ってしまうことがあるのでしょうか。そのメカニズムを説明する理論の一つに、「二段侵襲説」があります。従来は、臓器の機能不全は、一度きりの非常に強い衝撃やストレスによって引き起こされると考えられてきました。例えば、重度の交通事故による外傷や、広範囲にわたる火傷などがその例です。しかし、実際には、比較的軽度のストレスを受けた後、しばらくしてから臓器不全が起きるケースも少なくありません。二段侵襲説は、このような、一見関係なさそうな二つの段階を経て臓器不全に至るプロセスを説明します。第一段階では、感染症や手術、軽度の外傷など、比較的小さなストレスが体に影響を与えます。この時点では、臓器に目立った異常が見られないこともあります。しかし、体の中では、このストレスに対抗しようと、さまざまな変化が起きています。免疫システムが活性化し、炎症反応が起こり、エネルギー代謝が変化するなど、体は戦闘態勢に入ります。そして、この第一段階の影響が残っているところに、第二段階として、新たなストレスが加わると、臓器は一気に機能不全に陥ってしまうのです。第二段階のストレスは、必ずしも大きなものである必要はありません。軽度の感染症や手術、あるいは栄養状態の悪化などでも、臓器不全の引き金になり得ます。つまり、二段侵襲説は、私たちの体が過去のストレスの影響を蓄積している可能性を示唆しており、臓器不全の予防や治療において、この視点を持つことが重要です。
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多発外傷:生死を分ける重症度の高い外傷

私たちの体は、頭と首、胸、お腹、骨盤、そして腕や足といったように、いくつかの部分に分けて考えることができます。交通事故などで強い衝撃を受けると、これらの複数の場所に同時に重い怪我をしてしまうことがあります。このような、複数の部位に及ぶ深刻な怪我のことを「多発外傷」と呼びます。例えば、車に乗っていて事故に遭い、頭を強く打ち付けてしまったとしましょう。同時に、足の骨も折れてしまったとします。この場合、頭の怪我だけでも、足の骨折だけでも、入院が必要な重症となる可能性があります。しかし、多発外傷では、それぞれの怪我に加えて、複数の怪我による影響が重なり合い、さらに命の危険が高まってしまうのです。多発外傷は、交通事故だけでなく、高いところからの落下や、激しいスポーツなどでも起こる可能性があります。複数の部位に強い衝撃が加わるような場合には、特に注意が必要です。もしもの場合は、速やかに救急車を呼ぶなどして、適切な処置を受けるようにしましょう。
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災害時の命の選別:トリアージとは?

- トリアージ多くの命を守るための選択と歴史トリアージとは、大規模な災害や事故などで、多数の負傷者や病人が発生した場合に、限られた医療資源を最大限に活用し、一人でも多くの命を救うことを目的とした、治療の優先順位を決める手順です。 この言葉は、フランス語で「選別する」という意味の「トリアージュ(trier)」が語源となっています。その歴史は古く、1800年代初頭のナポレオン戦争時代にまで遡ります。戦場では、一度に多くの兵士が傷を負うため、限られた軍医や医療品を効率的に活用し、より多くの兵士の命を救う必要がありました。そこで、負傷した兵士の状態を見極め、治療の緊急性を判断するトリアージが考案されたのです。その後、トリアージは戦争だけでなく、自然災害や大事故など、様々な場面で多くの命を救うための重要な手法として認識されるようになりました。 現代では、災害医療において欠かせないものとなり、世界各国で、医師や看護師などの医療従事者によって実践されています。また、トリアージの手法は、時代の変化や医療技術の進歩に合わせて、より多くの命を救えるよう、常に改良が重ねられています。
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食道閉鎖式エアウェイ:その仕組みと注意点

- 食道閉鎖式エアウェイとは食道閉鎖式エアウェイは、呼吸が困難な患者に対して、気管挿管を行うまでの間、一時的に酸素を供給するための器具です。気管挿管は、口から気管までチューブを挿入して気道を確保する処置ですが、状況によっては困難な場合があります。そのような場合に、この食道閉鎖式エアウェイが重要な役割を果たします。この器具は、先端に膨らませることができる風船(バルーン)が付いたチューブでできています。このチューブを食道に挿入し、バルーンを膨らませることで、食道からの空気の漏れを防ぎます。食道は、食べ物を口から胃に送るための管ですが、気管とは別になっています。食道閉鎖式エアウェイの特徴は、気管ではなく食道に挿入するという点にあります。チューブ側面には穴が開いており、そこから空気を送り込むことで、肺に酸素を届けます。ただし、食道閉鎖式エアウェイはあくまでも一時的な酸素供給を目的とした器具です。気管挿管が完了するまでの間、あるいは他の呼吸補助手段が可能になるまでの間、患者の呼吸をサポートするために使用されます。
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命を脅かす緊張性気胸:緊急時の対応とは

- 緊張性気胸とは緊張性気胸は、肺を包んでいる胸腔と呼ばれる空間に空気が入り込み、肺が圧迫されて縮んでしまう気胸の一種です。 一般的な気胸では、胸腔内に漏れ出た空気は自然に吸収されていきます。しかし、緊張性気胸の場合、何らかの原因で胸腔内に漏れ出た空気が、息を吸っても吐いても外に出られず、胸腔内に溜まり続けてしまいます。その結果、胸腔内の圧力(胸腔内圧)が異常に高くなり、縮んだ肺はますます圧迫されます。さらに、心臓や血管も圧迫され、血液の循環が悪くなってしまいます。その結果、血圧が低下し、意識がもうろうとしたり、ショック状態に陥ったりする危険性があります。緊張性気胸は命に関わる危険な状態であり、一刻を争う迅速な対応が求められます。
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命を守る最後の砦:外科的気道確保とは

- 外科的気道確保とは何か外科的気道確保とは、呼吸が困難な患者に対して、口や鼻からの気管挿管といった通常の方法では気道を確保できない場合に、緊急的に行われる外科手術のことを指します。人間の身体は、通常、鼻や口から吸い込んだ空気を、喉頭と呼ばれる部分を通過させて気管、そして肺へと送り込みます。しかし、病気や怪我などによって、この空気の通り道である気道が塞がってしまうことがあります。このような場合、空気の通り道を確保して呼吸を可能にするため、外科的気道確保が必要となります。外科的気道確保は、主に意識を失った状態や、呼吸困難が極めて深刻な状況など、一刻を争う場面で行われます。具体的には、首の部分を切開し、気管に直接チューブを挿入することで空気の通り道を作ります。外科的気道確保は、命を救うための最後の手段と言えるほど、リスクの高い処置です。しかし、適切な状況下で迅速に行われれば、呼吸を再開させ、患者を救命できる可能性があります。
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救命の砦!救急室開胸とは?

救急医療の現場では、患者さんの容体が急激に悪化し、一刻を争う事態に遭遇することがあります。まさに時間との戦いであり、迅速かつ的確な判断と行動が求められます。その中でも、重症の心臓血管患者さんに対して、救命の最終手段として選択されるのが『救急室開胸』です。これは、手術室への搬送が困難なほど患者さんの状態が深刻な場合に、救急室で緊急に開胸手術を行うという、極めて高度な医療行為です。救急室開胸は、心臓や大動脈などの重要な臓器に損傷があり、一刻の猶予も許されない状況で行われます。例えば、心停止状態の患者さんに対して心臓マッサージなどの蘇生処置を行っても効果がない場合や、大動脈解離などで心臓や肺に圧迫が加わっている場合などが考えられます。このような緊迫した状況下では、医師や看護師をはじめとする医療従事者は、それぞれの専門知識と技術を駆使し、一丸となって患者さんの救命に全力を尽くします。救急室開胸は、まさに医療チームの総合力が試される場と言えるでしょう。しかし、救急室という限られた環境下で行われる開胸手術は、手術室で行う場合と比べてリスクも高くなります。そのため、患者さんの状態やリスクを慎重に判断し、最善の治療方針を決定する必要があります。
制度

災害時の頼みの綱!災害拠点病院とは?

- 災害拠点病院の役割とは災害拠点病院は、大地震や台風などによる甚大な被害をもたらす災害時において、負傷者や病気になった人を広範囲から受け入れる重要な役割を担っています。災害発生直後には、多くの負傷者が病院に搬送されてくることが予想されますが、災害拠点病院は、そのような緊急事態にも対応できるよう、日頃から入念な準備を行っています。まず、医師や看護師を常に十分な人数確保し、緊急時に備えています。また、治療に必要な薬や医療器具なども大量に備蓄しており、不足することなく治療を続けられる体制を整えています。さらに、手術室や集中治療室などの設備も充実させており、重症度の高い患者に対しても高度な医療を提供できるようになっています。災害拠点病院は、まさに災害時の医療の砦といえるでしょう。日頃の備えと、そこで働く医療従事者の献身的な活動によって、私たちの命と健康は守られています。
その他

広域災害時でも安心!医療情報ネットワーク

大規模な災害が発生すると、負傷者が多く発生し、病院などの医療機関は大混乱となります。道路が寸断されてしまったり、電気が使えなくなったりすると、一刻を争う怪我や病気の治療をスムーズに行うことが難しくなります。このような困難な状況下では、限られた医療スタッフや物資を最大限に活用し、一人でも多くの命を救うために、病院と病院、地域と地域が協力し、助け合う体制が非常に重要となります。例えば、被害の大きさに応じて、軽症者の治療を行う病院と、重症者の治療を行う病院をあらかじめ決めておくことが重要です。 こうすることで、重症患者に必要な医療資源を集中させることができます。 また、被災地以外の医療機関が、医師や看護師を被災地に派遣する体制を整えておくことも重要です。 さらに、医薬品や医療物資を備蓄しておくことはもちろん、被災地へ迅速に届けるための輸送ルートの確保も欠かせません。災害はいつどこで起こるかわかりません。日頃から、地域全体で災害時の医療体制について考えておくことが、多くの命を守ることに繋がります。
その他

隠れた危険!浸透圧ギャップでわかる体の異変

- 浸透圧ギャップって何?私たちの血液の中には、体に必要な栄養や酸素を運ぶ役割を担う、たくさんの成分が含まれています。例えば、食事から摂る塩分に含まれるナトリウムや、エネルギー源となるブドウ糖などが挙げられます。血液中に溶けているこれらの物質の濃度を表す指標として、「浸透圧」というものが用いられます。通常、血液中の浸透圧は、ナトリウムやブドウ糖などの濃度を測定することで、おおよその値を計算することができます。しかし、実際に測定してみると、計算で予測した値と、実測値との間に、わずかな差が生じることがあります。この計算値と実測値の差を「浸透圧ギャップ」と呼びます。浸透圧ギャップは、血液中に、計算では予測できない物質が溶け込んでいることを示唆しています。健康な状態であれば、血液中に溶け込んでいる物質のほとんどは計算で予測できるものなので、浸透圧ギャップはほとんどゼロに近い値を示します。しかし、もしも体の中で異常が起こり、血液中に通常は存在しない物質が溶け込むようなことがあれば、浸透圧ギャップが大きくなることがあります。具体的には、腎不全や糖尿病、アルコール中毒などの病気が隠れている可能性が考えられます。そのため、浸透圧ギャップは、これらの病気を早期発見するための重要な指標として用いられています。