外傷

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救える命を守る!JPTECってなに?

日々、様々な事故や災害が発生する中で、一人でも多くの命を救いたいと願う気持ちは皆同じです。特に、事故や災害の発生直後は、適切な処置を迅速に行うことが、傷病者の生死を大きく左右します。一刻を争う緊迫した状況下において、救急隊員や医療従事者の方々は、日々、私たちのために尽力してくれています。このような状況の中、日本の救急医療現場では、「JPTEC」と呼ばれる取り組みが進められており、多くの命を救うための重要な役割を担っています。JPTECは、日本国内で発生しうる、様々な事故や災害に対応できるよう、救急隊員や医療従事者に対して、統一された知識と技術の習得を目指した教育プログラムです。今回は、この「JPTEC」について詳しく解説していくことで、日本の救急医療体制への理解を深めると共に、事故や災害発生時に私たち一人ひとりがどのような行動を取れるのか、改めて考えるきっかけを提供できればと思います。
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救命現場で活躍するFAST:迅速簡易超音波検査

- FASTとはFASTは、怪我をした人を診察する時、特に事故などで強い衝撃を受けた際に、体の内側で出血が起きていないか超音波を使って素早く確認する方法です。「Focused Assessment with Sonography for Trauma」の頭文字をとってFASTと呼ばれ、日本語では「外傷患者のための超音波検査による集学的評価」と言います。FASTの特徴は、その名の通り、短時間で簡単に検査できることです。特別な機械や高度な技術は必要なく、医療設備が十分にない場所でも行うことができます。FASTでは、主に以下の4つの部位を観察します。1. 心臓の周りの空間心臓を包む膜と心臓の間に、血液が溜まっていないかを確認します。2. 肝臓の周り肝臓は体の右側、肋骨の下にある大きな臓器で、ここに出血がないかを確認します。3. 脾臓の周り脾臓は体の左側、肋骨の下にある臓器で、ここに出血がないかを確認します。4. お腹や胸の中お腹や胸の中に、血液やその他の液体(例えば、肺の周り)が溜まっていないかを確認します。FASTは、事故や転倒などで強い衝撃を受けた人の命に関わる内出血を早期に発見するために非常に役立ちます。
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外傷初期診療の指針:JATEC™とは

- 日本で生まれた外傷診療ガイドライン日本では、交通事故や災害などで、予期せぬ怪我を負う場面は少なくありません。このような、命に関わる可能性のある怪我に対して、迅速かつ適切な処置を行うことは非常に重要です。そこで、日本の医療現場に合わせて独自に開発されたのが、「JATEC™」という外傷診療ガイドラインです。JATEC™は、「Japan Advanced Trauma Evaluation and Care」の略称で、日本語に訳すと「日本の高度外傷評価とケア」となります。これは、1960年代からアメリカで始まった国際的な外傷初期診療のガイドラインである「ATLS(advanced trauma life support)」を参考に、日本の医療現場の実情に合わせて作られました。JATEC™の特徴は、外傷を負った患者に対する初期診療において、医師が取るべき行動を具体的に示している点です。これにより、経験の浅い医師でも、一定水準以上の診療を提供することが可能になります。また、JATEC™はガイドラインだけでなく、医師や看護師などを対象とした教育コースも提供しており、外傷診療の質の向上に大きく貢献しています。このように、JATEC™は、日本の外傷医療において欠かせない存在となっています。
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命を脅かす危険な圧迫:腹部コンパートメント症候群とは

お腹の中は、重要な臓器が数多く詰まった身体の大切な空間です。通常、この空間内は一定の圧力で保たれていますが、何らかの原因で圧力が異常に高まってしまうと、「腹部コンパートメント症候群」と呼ばれる危険な状態に陥ることがあります。腹部コンパートメント症候群は、交通事故による強い衝撃や、お腹の中で起こる出血、あるいは激しい炎症などがきっかけで発生します。これらの原因によってお腹の中の圧力、つまり腹腔内圧が急激に上昇し、血管や臓器を圧迫してしまうのです。圧迫された血管は血液をうまく送り出すことができなくなり、酸素や栄養が全身に行き渡らなくなります。その結果、呼吸が苦しくなったり、血圧が低下したり、さらには腎臓などの臓器が正常に機能しなくなるなど、生命の危機に直結する重篤な症状を引き起こします。腹部コンパートメント症候群は、早期発見と迅速な治療が極めて重要となる病気です。
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輸液療法とリフィリング現象:知っておきたいリスク

私たちの身体は、外部からの様々な影響に常にさらされています。例えば、転んで怪我をしてしまったり、高温の物に触れて火傷を負ったり、有害な物質を誤って口にしてしまったり、ウイルスや細菌に感染してしまうこともあるでしょう。こうした外部からの影響によって身体が傷つけられることを、「侵襲」と呼びます。侵襲は、その種類や程度によって身体に様々な反応を引き起こします。私たちの身体の約60%は水分でできており、その大部分は血液として血管の中を流れています。血液は、酸素や栄養を全身に届けたり、老廃物を回収したりと、生命維持に欠かせない役割を担っています。ところが、侵襲を受けると、この体内の水分バランスが崩れてしまうことがあります。例えば、火傷を負うと、損傷した皮膚から水分が蒸発してしまいますし、怪我をすると、出血によって血液中の水分が失われてしまうことがあります。また、侵襲に対する身体の防御反応として、血管の外に水分が漏れ出てしまうこともあります。通常、血管は体内の水分を適切に保つために、壁の透過性を調整していますが、侵襲を受けると、その調整機能が乱れて血管から水分が漏れ出てしまうのです。水分が血管の外に漏れ出すと、血管内の血液量が減り、血圧が低下してしまいます。また、漏れ出した水分が組織の間に溜まると、細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり、臓器の機能が低下してしまう可能性もあります。このように、侵襲によって体内の水分バランスが乱れると、様々な問題を引き起こす可能性があります。そのため、侵襲を受けた際には、速やかに医療機関を受診し、適切な処置を受けることが重要です。
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初期輸液療法とレスポンダー

出血を伴う怪我は、命に関わる深刻な状態に陥ることがあります。特に、大量の出血によって血液の循環が著しく悪くなる出血性ショックは、迅速な対応が求められる緊急事態です。出血性ショックに適切に対処するためには、まず出血をできるだけ早く止めることが重要です。傷口を直接圧迫したり、止血帯を使用するなどして、さらなる出血を防ぎます。それと同時に、体内の血液量を補うための輸液療法も欠かせません。これは、点滴によって血管内に直接、水分や電解質を送り込むことで、血液循環を維持する治療法です。輸液療法を行う際には、外傷初期診療ガイドライン(JATEC)などを参考に、適切な輸液の種類や量、速度などを判断する必要があります。自己流の判断で輸液を行うことは大変危険です。出血性ショックは一刻を争う状態です。そのため、救急隊に連絡し、医療機関で適切な治療を受けることが何よりも重要です。
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外傷の重症度を評価するAISとは?

- AISの概要AISは、怪我の重症度を客観的に評価し、記録するための国際的な基準です。正式名称は「解剖学的傷害重症度スコア(Anatomical Injury Severity Score)」と言います。事故や転倒など、様々な原因で起こる怪我について、その深刻さを数値化することで、医療現場における情報共有や治療方針の決定、そして交通事故などの原因分析などに役立てられています。AISは1971年にアメリカで初めて発表され、その後も医学の進歩に合わせて定期的に改訂が重ねられています。 人体を頭部や胸部、腹部など9つの部位に分け、それぞれの部位に起こった怪我について、その程度を1から6までの6段階で評価します。 1が最も軽度で、6が最も重症な状態を表します。例えば、かすり傷のような軽い怪我であれば1、命に関わるような重度の怪我であれば6と評価されます。このAISを用いる最大のメリットは、医師間で怪我の程度について共通認識を持つことができる点にあります。 従来は、医師の経験や主観に頼って怪我の重症度を判断していましたが、AISを用いることで、より客観的で正確な評価が可能になりました。 これにより、患者さんにとってより適切な治療方針を決定できるようになり、救命率の向上や後遺症の軽減にも繋がると期待されています。AISは、交通事故の分析や予防にも活用されています。事故の状況とAISによる怪我の程度を照らし合わせることで、事故の原因究明や安全対策の強化に役立てられています。
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外傷初期診療の重要性:ATLSとは

事故や災害現場で発生する外傷は、一刻を争う深刻な事態となることが少なくありません。このような状況下では、迅速かつ的確な初期診療が、傷病者の生死を分ける決定的な要因となります。 外傷初期診療の重要性は、救命率に直結すると言っても過言ではありません。医療従事者は、限られた時間の中、的確な状況判断と、迅速かつ適切な処置を行うことが求められます。外傷には、骨折や裂傷、出血、内臓損傷など、様々な種類が存在します。状況に応じて、気道確保、呼吸管理、循環確保といった救命処置を優先的に行う必要があります。これらの処置は、傷病者の状態を安定させ、救命の可能性を高めるために非常に重要です。また、適切な搬送先を選定し、迅速に搬送することも、救命率向上には欠かせません。外傷初期診療を効果的に行うためには、医療従事者は体系的な知識と高度な技術を習得していることが不可欠です。特に、緊急事態における冷静な状況判断と、迅速かつ的確な処置を行うための実践的な能力が求められます。そのため、医療従事者は、日頃からシミュレーション訓練などを通じて、緊急時対応能力の向上に努める必要があります。 外傷初期診療は、医療従事者の知識・技術・経験が試される重要な領域と言えるでしょう。
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交通事故の危険!ハンドル外傷とは?

自動車の衝突事故は、時に体に大きな傷を負わせてしまうことがあります。その中でも「ハンドル外傷」は、運転する人にとって特に注意が必要な怪我の一つです。ハンドル外傷とは、交通事故の瞬間、ハンドルが胸やみぞおち辺りにぶつかることで起こる怪我の総称です。胸やお腹の表面には傷が見えなくても、体内では重い損傷を受けている可能性があり、注意が必要です。ハンドル外傷で起こる可能性のある怪我としては、肋骨骨折、肺の損傷、心臓の損傷、肝臓や脾臓などの内臓損傷などがあります。これらの怪我は、初期には自覚症状が乏しい場合もあり、放置すると命に関わる危険性もあります。交通事故に遭い、胸やみぞおち辺りに痛みや違和感がある場合、またはハンドルが体に強く当たった自覚がある場合は、たとえ軽い事故であっても、速やかに医療機関を受診することが大切です。交通事故はいつどこで起こるかわかりません。日頃から安全運転を心がけ、事故を起こさないようにすることが最も重要です。また、万が一事故に遭ってしまった場合に備え、自分が加入している自動車保険の内容を確認しておくことも大切です。特に、人身傷害保険や搭乗者傷害保険は、ハンドル外傷のような怪我の治療費や入院費などを補償してくれるため、必ず加入しておきましょう。
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防ぎえた外傷死:その意味と重要性

事故や災害などで大きな怪我を負った時、一刻も早い適切な治療が生死を分けることになります。しかし、様々な事情により、必要な医療が受けられなかったり、医療の質が十分でなかったりする場合があります。その結果、本来であれば助かったはずの命が失われてしまうという痛ましい事態が起こり得るのです。このような、適切な医療処置があれば防ぐことができたと考えられる外傷による死亡を「防ぎえた外傷死」と呼びます。「防ぎえた外傷死」は、医療体制の問題だけでなく、事故や災害発生時の状況、負傷者の状態、救助活動の遅れなど、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。例えば、交通事故の発生件数が多い地域、自然災害の発生しやすい地域では、発生直後の医療需要が高まり、医療体制が逼迫する可能性があります。また、救急搬送体制の整備状況、医療従事者不足、医療機関の設備や人員配置なども、「防ぎえた外傷死」の発生率に影響を与えます。「防ぎえた外傷死」を減らすためには、医療関係者だけでなく、行政機関、地域住民など、社会全体で取り組む必要があります。救急医療体制の充実、災害医療体制の強化、事故防止対策の推進など、多角的な対策を講じることで、尊い命を救うことができるはずです。
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見逃し厳禁!ディストラクティング・インジャリーとは?

事故や転倒などで強い衝撃を受けたとき、その場での激しい痛みや目に見える傷に気を取られがちです。しかし、初期の段階では分かりにくい深刻な怪我をしている可能性もあります。特に、身体の支柱である脊椎を損傷すると、後遺症が残ったり、日常生活に支障をきたす可能性があります。そのため、脊椎損傷の可能性を常に念頭に置き、見逃さないようにすることが重要です。脊椎損傷では、首や背中、腰などに痛みやしびれを感じることがあります。また、手足の麻痺や感覚異常、排尿・排便障害が現れることもあります。これらの症状は、必ずしもすぐに現れるとは限りません。時間の経過とともに徐々に症状が現れる場合もあるため注意が必要です。もし、脊椎損傷の可能性が少しでもある場合は、むやみに動かしたりせず、速やかに救急車を要請することが大切です。救急隊員に状況を正確に伝え、指示に従って適切な処置を受けてください。自己判断で動いてしまうと、症状を悪化させたり、回復を遅らせたりする可能性があります。日頃から、事故時の対応について家族や周囲の人と話し合っておくことも大切です。いざというときに適切な行動が取れるように、知識を深め、備えておきましょう。
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多臓器損傷:その危険性と対応

- 多臓器損傷とは交通事故などの大きな事故に遭ったり、災害に巻き込まれたりした際に、私たちの身体は大きな衝撃を受け、様々な傷を負うことがあります。中でも、一度に複数の臓器が損傷を受けてしまう「多臓器損傷」は、命に関わる危険性も非常に高く、一刻を争う深刻な状態です。多臓器損傷は、例えば交通事故で腹部を強く打ち付け、肝臓や脾臓、腎臓など、お腹の中にある複数の臓器が同時に傷ついてしまうような場合を指します。このような状態に陥ると、それぞれの臓器が正常に機能しなくなるだけでなく、臓器同士の連携も崩れてしまい、全身に悪影響が及ぶ可能性があります。多臓器損傷は、初期の段階では外見からはその深刻さを判断しにくい場合もあります。しかし、時間の経過とともに容態が急変する可能性も高く、早期発見と適切な処置が救命の鍵となります。そのため、交通事故などに遭った後、たとえ軽傷だと思えても、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けるように心がけましょう。
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多発外傷:生死を分ける重症度の高い外傷

私たちの体は、頭と首、胸、お腹、骨盤、そして腕や足といったように、いくつかの部分に分けて考えることができます。交通事故などで強い衝撃を受けると、これらの複数の場所に同時に重い怪我をしてしまうことがあります。このような、複数の部位に及ぶ深刻な怪我のことを「多発外傷」と呼びます。例えば、車に乗っていて事故に遭い、頭を強く打ち付けてしまったとしましょう。同時に、足の骨も折れてしまったとします。この場合、頭の怪我だけでも、足の骨折だけでも、入院が必要な重症となる可能性があります。しかし、多発外傷では、それぞれの怪我に加えて、複数の怪我による影響が重なり合い、さらに命の危険が高まってしまうのです。多発外傷は、交通事故だけでなく、高いところからの落下や、激しいスポーツなどでも起こる可能性があります。複数の部位に強い衝撃が加わるような場合には、特に注意が必要です。もしもの場合は、速やかに救急車を呼ぶなどして、適切な処置を受けるようにしましょう。
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ダメージコントロールサージェリー:外傷治療の最前線

- 戦闘の知恵から生まれた医療戦略ダメージコントロールサージェリー(DCS)という言葉をご存知でしょうか。これは、元々は戦闘で損傷を受けた艦船を速やかに応急処置し、沈没を防いで港まで持ち帰るための軍事用語でした。それが今、医療の現場で、生命の危機に瀕した外傷患者を救うための戦略として確立しつつあります。戦闘現場では、一刻を争う状況下で、限られた資源と人員で最大の効果を上げる必要があります。そこで重要となるのが、ダメージコントロールの考え方です。これは、損傷のすべてを完全に修復しようとするのではなく、まず致命的な損傷箇所を迅速に処置し、機能を最低限回復させることを優先する考え方です。この考え方を医療に応用したのがDCSです。外傷を負った患者、特に出血を伴う重症患者は、時間との闘いとなります。従来の手術のように、損傷のすべてを完璧に治療しようとすると、時間ばかりが経過し、患者の状態が悪化してしまう可能性があります。そこでDCSでは、まず生命に関わる重篤な出血を最優先で止血し、呼吸と循環を確保します。そして患者の状態を安定させてから、改めて詳細な検査や手術を行うのです。このように、DCSは戦闘の現場で培われた迅速かつ効率的な対応の原則を、医療の現場に応用した革新的な戦略といえるでしょう。
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致死的3徴とは:重症外傷における危険な兆候

- 致死的3徴の概要事故や災害で大きな怪我を負った時、命に関わる深刻な状態に陥ることがあります。医学の世界では『致死的3徴』と呼ばれるものがそれにあたります。これは、一般的に死のサインとして知られる『瞳孔反応の停止』『呼吸の停止』『心臓の停止』の三徴とは全く異なるものです。致死的3徴は、重症外傷後に現れる『低体温』『アシドーシス』『凝固異常』の3つの状態を指します。 これらの状態が重なると、生存率が著しく低下してしまうため、一刻を争う迅速な処置が必要となります。まず、『低体温』とは、文字通り体温が低下した状態を指します。大量出血や体温の低下する環境下では、体が冷えやすく、低体温に陥りやすくなります。低体温になると、心臓、脳、血液の循環などの機能が低下し、生命の危機に繋がります。次に、『アシドーシス』は、血液が酸性に傾いた状態です。呼吸不全やショック状態になると、体内で酸素がうまく取り込めなくなり、血液中に酸が溜まりやすくなります。アシドーシスは、心臓の機能低下や意識障害を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。最後に、『凝固異常』は、血液が固まりにくくなる状態です。大怪我や手術などにより大量出血が起こると、血液の凝固因子と呼ばれる成分が消費され、体が本来持つ止血機能がうまく働かなくなります。その結果、出血が止まらず、生命の危機に直面することになります。このように、致死的3徴はそれぞれが独立した危険因子であると同時に、互いに悪影響を及ぼし合い、負の連鎖を引き起こす点に注意が必要です。迅速な処置と適切な治療によって、この負の連鎖を断ち切ることが、救命率向上に不可欠と言えるでしょう。
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侵襲後の体の反応:CARSって何?

私たちは日常生活の中で、小さなすり傷や切り傷、時には大きな病気や怪我など、様々な原因で身体に傷を負うことがあります。このような外部からの侵襲に対して、私たちの体は傷を治し、元の状態に戻そうと一生懸命働きます。この時、体内で起こる反応の一つに「炎症反応」があります。炎症反応は、傷ついた組織を修復し、細菌などの病原体から体を守るために非常に重要な役割を担っています。 例えば、指を切ってしまった場合、傷口は赤く腫れ、熱を持ち、痛みを感じます。これは、体内で炎症反応が起きているサインです。炎症反応が起こると、血管が広がり、血液の流れが活発になります。そして、血液中から白血球などの免疫細胞が患部に集まり、細菌や損傷した細胞を攻撃し、排除しようとします。しかし、炎症反応は、時に過剰に起こってしまうことがあります。例えば、花粉症は、花粉に対して免疫システムが過剰に反応し、くしゃみや鼻水などの症状を引き起こすアレルギー反応の一種です。また、関節リウマチなどの自己免疫疾患では、免疫システムが自分自身の細胞を攻撃してしまい、慢性的な炎症を引き起こします。炎症反応は、私たちの体を守るために必要な反応ですが、過剰に反応すると体に悪影響を及ぼす可能性もあります。日頃からバランスの取れた食事や十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めておくことが大切です。
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救命の砦:大動脈内バルーン遮断とは

一刻を争う事態である重篤な出血性ショック状態の患者さんを救命する手段として、『大動脈内バルーン遮断』という治療法があります。これは、外傷による出血などで、命に関わるほどの大量出血が起きた場合に、緊急的に行われる極めて高度な医療技術です。出血性ショックに陥った場合、輸液や輸血といった標準的な治療がまず行われます。しかし、これらの治療にも関わらず、容体が改善せず心臓が停止する危険性が非常に高い場合には、最後の手段としてこの大動脈内バルーン遮断が選択されることがあります。大動脈内バルーン遮断は、カテーテルと呼ばれる細い管を脚の付け根の血管から挿入し、心臓近くの大動脈まで進めます。そして、カテーテルの先端にあるバルーンを膨らませることで大動脈を一時的に閉鎖し、脳や心臓などの重要な臓器への血流を確保することを目的としています。時間との闘いとなる緊急性の高い処置であるため、救命率は決して高くありません。しかし、この治療法によって、貴重な時間を稼ぎ、その間に止血などの根本的な治療を行うことが可能となります。まさに、一刻を争う事態における最後の砦と言えるでしょう。
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命を脅かす緊急事態:心タンポナーデ

私たちの心臓は、「心膜」と呼ばれる袋のような組織に包まれて守られています。普段は、心膜と心臓の間には少量の液体(心嚢液)があり、心臓がスムーズに動くようにサポートしています。しかし、病気や怪我など、何らかの原因でこの心嚢に血液や体液が過剰に溜まってしまうことがあります。すると、心臓は圧迫されてしまい、正常に拍動することができなくなります。これが「心タンポナーデ」と呼ばれる危険な状態です。心タンポナーデは、心臓を圧迫することで血液を全身に送り出すポンプとしての機能を低下させます。その結果、息切れやめまい、意識障害などの症状が現れ、最悪の場合、死に至ることもあります。心タンポナーデは、迅速な対応が必要となる緊急事態です。症状が現れた場合は、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。治療では、過剰に溜まった心嚢液を針で穿刺して排出する「心嚢穿刺術」などが行われます。心タンポナーデは命に関わる病気ですが、早期発見・早期治療によって救命できる可能性があります。
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緊急事態!心嚢気腫とは?

- 心臓を圧迫する危険な状態、心嚢気腫とは?心臓は、私たちの体全体に血液を送るために休むことなく動き続けている重要な臓器です。この大切な心臓は、「心嚢」と呼ばれる薄い袋状の組織に包まれています。通常、この心嚢の中には少量の液体があり、心臓がスムーズに動くための潤滑油の役割を果たしています。しかし、何らかの原因でこの心嚢の中に空気が入り込んでしまうことがあります。これが「心嚢気腫」と呼ばれる状態です。心嚢気腫になると、心臓を取り巻く空間の圧力が異常に高まります。この圧力は、まるで心臓を風船のように外側から締め付けるように作用し、心臓の動きを阻害してしまいます。その結果、心臓は十分な量の血液を送り出すことができなくなり、息切れや胸の痛み、意識障害などの深刻な症状が現れることがあります。心嚢気腫を引き起こす原因は様々です。例えば、肺に穴が開いてしまう気胸や、胸部に強い衝撃を受ける外傷、心臓自身に穴が開いてしまう心破裂などが挙げられます。また、細菌やウイルスによる感染症が原因となる場合もあります。心嚢気腫は命に関わる危険性もあるため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。もしも、息苦しさや胸の痛み、脈の乱れなど、普段と異なる症状を感じたら、速やかに医療機関を受診するようにしましょう。早期発見と適切な治療によって、心臓への負担を軽減し、健康な状態を取り戻せる可能性が高まります。
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命に関わる臓器の緊急事態:穿孔とは?

私たちの体内には、食べ物を消化したり、血液を循環させたりするために、管状の臓器が数多く存在します。口から肛門までは消化管と呼ばれ、栄養を吸収する大切な役割を担っています。また、心臓から全身へ、そして全身から心臓へと血液を送り届ける血管も、同じく管状の臓器です。これらの臓器は、私たちの生命維持に欠かせないものです。しかし、このような体内の管に、病気や怪我など様々な原因で穴が開いてしまうことがあります。これが「穿孔」と呼ばれる状態です。穿孔が起こると、本来、管の中にあるべきものが漏れ出てしまい、周囲の組織に炎症を引き起こしたり、臓器の機能を低下させたりすることがあります。例えば、胃や腸に穿孔が起こると、消化液や内容物が腹腔内に漏れ出し、激しい腹痛や発熱を引き起こします。また、血管に穿孔が起こると、内出血を起こし、生命に関わる危険な状態となることもあります。穿孔は、早期発見・早期治療が非常に重要です。穿孔の症状は、その原因や発生部位によって様々ですが、激しい痛みや発熱、吐き気、嘔吐などが見られる場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
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生死を分ける胸部大動脈損傷:早期診断と治療の重要性

- 胸部大動脈損傷とは胸部大動脈損傷とは、心臓から身体に血液を送る太い血管である大動脈のうち、胸の部分にある胸部大動脈が損傷してしまう深刻な状態です。交通事故や高所からの転落など、強い衝撃が身体に加わることで、胸部大動脈に大きな力がかかり、引き裂かれたり、断裂したりすることがあります。特に損傷が多いのは大動脈峡部と呼ばれる部分です。ここは心臓から送り出された血液が最初に通る場所で、最も圧力が高いため、損傷を受けやすいとされています。胸部大動脈損傷は、大量出血を引き起こし、適切な処置が遅れると命に関わる危険性があります。そのため、早期発見と迅速な治療が極めて重要です。
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胸部外傷で見逃せない!気胸、血胸、血気胸とは?

私たちの肺は、胸膜という薄い膜で包まれています。肺と胸膜の間には、わずかな液体で満たされた胸膜腔という空間があります。胸部に強い衝撃を受けると、この胸膜腔で異常が起こることがあります。主な病態として、気胸、血胸、血気胸の3つが挙げられます。気胸は、胸膜腔に空気が入り込むことで肺が圧迫される状態です。息苦しさや胸の痛みを感じ、呼吸が浅く速くなることがあります。重症化すると、顔色が悪くなったり、意識がもうろうとしたりする危険性もあります。血胸は、胸膜腔に出血が起こり、肺が圧迫される状態です。出血量が多いと、酸素を十分に取り込めなくなり、ショック状態に陥ることもあります。血気胸は、気胸と血胸が同時に起こる状態です。空気が入る原因としては、肺を損傷するような外傷が考えられます。呼吸困難や胸の痛み、血圧低下など、気胸と血胸の両方の症状が現れます。いずれの病態も命に関わる危険性があるため、迅速な処置が必要です。特に、交通事故や高所からの落下など、胸部に強い衝撃を受けた場合は、これらの病態を疑い、速やかに医療機関を受診することが重要です。
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救命の砦!救急室開胸とは?

救急医療の現場では、患者さんの容体が急激に悪化し、一刻を争う事態に遭遇することがあります。まさに時間との戦いであり、迅速かつ的確な判断と行動が求められます。その中でも、重症の心臓血管患者さんに対して、救命の最終手段として選択されるのが『救急室開胸』です。これは、手術室への搬送が困難なほど患者さんの状態が深刻な場合に、救急室で緊急に開胸手術を行うという、極めて高度な医療行為です。救急室開胸は、心臓や大動脈などの重要な臓器に損傷があり、一刻の猶予も許されない状況で行われます。例えば、心停止状態の患者さんに対して心臓マッサージなどの蘇生処置を行っても効果がない場合や、大動脈解離などで心臓や肺に圧迫が加わっている場合などが考えられます。このような緊迫した状況下では、医師や看護師をはじめとする医療従事者は、それぞれの専門知識と技術を駆使し、一丸となって患者さんの救命に全力を尽くします。救急室開胸は、まさに医療チームの総合力が試される場と言えるでしょう。しかし、救急室という限られた環境下で行われる開胸手術は、手術室で行う場合と比べてリスクも高くなります。そのため、患者さんの状態やリスクを慎重に判断し、最善の治療方針を決定する必要があります。
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多発外傷の重症度を評価する:外傷重症度スコアの解説

- 外傷重症度スコアとは外傷重症度スコア(ISS)は、交通事故や転落事故などによって、一箇所だけでなく身体の複数の部位に怪我を負った、いわゆる多発外傷の患者さんの状態を評価するための指標です。1974年にベイカーという医師たちによって考案され、その後もより正確に評価できるように改良が重ねられてきました。このスコアは、患者さんが負った怪我の重症度を数値化することで、医師が患者さん一人ひとりに最適な治療方針を決定するのに役立ちます。怪我の程度を客観的な数値で表すことができるため、医師間での情報共有や治療方針の決定がスムーズに行えるようになるというメリットもあります。ISSは、人体を頭部・頸部、顔面、胸部、腹部、四肢、体表の6つの部位に分け、それぞれの部位で最も重症な怪我に対して、1点(軽傷)から5点(致命傷)までの点数がつけられます。そして、最も点数が高い部位が2つ以上ある場合は、そのうち点数の高い上位2つの部位の点数をそれぞれ2乗して足し合わせることで、総合的な外傷重症度スコアを算出します。例えば、頭部に重症な怪我(5点)を負い、その他に腕の骨折(3点)などの怪我を負った場合、ISSは5の2乗と3の2乗を足した34点となります。ISSが15点以上の場合、重症多発外傷と判断され、救命救急センターでの集中的な治療が必要となります。ISSを用いることで、患者さんの予後、つまり将来的な回復の見込みを予測することも可能になります。スコアが高いほど、後遺症が残ったり、最悪の場合、亡くなってしまうリスクが高くなるということが統計的に示されています。このように、外傷重症度スコアは、多発外傷の患者さんの治療方針決定や予後予測に非常に役立つ重要な指標と言えます。