人工呼吸

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腹臥位呼吸療法:急性呼吸不全の切り札

- 腹臥位呼吸療法とは腹臥位呼吸療法とは、呼吸がうまくできなくなった患者さん、特に急性呼吸不全の状態にある患者さんに対して行われる治療法の一つです。この治療法は、患者さんをうつ伏せの状態、つまりお腹を下にした姿勢にすることからその名前が付けられています。患者さんをうつ伏せにすると、一体どのような効果があるのでしょうか。私たちが呼吸をする時、肺は空気を取り込み、酸素を身体に取り込んでいます。しかし、肺炎や肺水腫など、肺の病気が悪化すると、肺はうまく膨らむことができなくなり、十分な酸素を取り込めなくなります。特に、肺の背中側がダメージを受けやすく、重症化すると、仰向けの状態では、心臓や他の臓器の重みで肺が圧迫され、さらに呼吸が苦しくなってしまうのです。そこで、腹臥位呼吸療法の出番です。患者さんをうつ伏せにすることで、背中側の肺にかかる圧迫を減らし、肺が膨らみやすくなるため、酸素を取り込みやすくすることが期待できます。この治療法は、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)など、肺の背中側に病変が集中する「背側肺障害」と呼ばれる状態に特に効果を発揮すると言われています。人工呼吸器を装着した患者さんに行われる治療法ですが、患者さんの状態や病気の種類によって、腹臥位呼吸療法が適しているかどうかは異なってきます。
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いざという時の備えに!ポケットマスクのススメ

- ポケットマスクとは?ポケットマスクは、その名の通り、普段は小さく折りたたんでポケットに収納できるほどコンパクトなマスクで、緊急時に人工呼吸を行う際に役立ちます。医療従事者だけでなく、一般の方でも簡単に使用できるよう設計されているのが特徴です。従来の人工呼吸では、口と口を直接合わせて行う方法が一般的でしたが、衛生面や感染リスクの観点から抵抗を感じる方も少なくありませんでした。ポケットマスクを使用することで、口と口が直接触れることなく人工呼吸を行うことが可能となり、感染症への不安を軽減することができます。また、ポケットマスクには、呼気が逆流するのを防ぐための「一方向弁」が備わっているため、より安全かつ効果的に人工呼吸を行うことができます。さらに、人工呼吸の際に頭を適切な角度に保つための「ヘッドストラップ」が付属している製品もあり、誰でも簡単に使用できるよう工夫されています。コンパクトで持ち運びに便利なポケットマスクは、家庭や職場、学校など、あらゆる場所に備えておくことが推奨されています。いざという時に備え、使用方法を事前に確認しておくことが大切です。
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非侵襲的陽圧換気法:やさしい呼吸管理

- 非侵襲的陽圧換気法とは非侵襲的陽圧換気法(NIPPV)は、呼吸が苦しい患者さんの肺に、外から空気を送り込むことで呼吸を助ける治療法です。従来の人工呼吸器は、口や鼻から気管に管を入れる必要がありました。しかし、NIPPVでは、鼻や口を覆うマスクを装着するだけで治療が可能です。そのため、気管挿管に伴う痛みや不快感、合併症のリスクを回避できます。NIPPVは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や心不全、睡眠時無呼吸症候群など、様々な呼吸器疾患の治療に用いられます。特に、在宅医療においても重要な役割を担っており、患者さんが自宅でより快適に過ごせるようサポートします。NIPPVは、患者さんの負担を軽減できる一方、適切なマスクの選択や装着、空気圧の設定などが重要となります。そのため、医師や呼吸療法士などの専門家による適切な指導と管理が必要です。
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肺と胸郭のコンプライアンス:息を吸う仕組みを理解する

私たちは、普段意識することなく呼吸をしていますが、この自然な呼吸は、肺や胸郭が持つゴムのような伸び縮みする性質によって行われています。肺や胸郭は、まるでゴム風船のように、常に縮もうとする力を持っています。この縮もうとする力のことを弾性といいます。コンプライアンスは、この弾性とは反対の性質を示す指標です。つまり、肺や胸郭が、どれくらい膨らみやすいかを表しています。コンプライアンスが高いということは、少しの力で肺や胸郭が大きく膨らむことを意味し、逆にコンプライアンスが低い場合は、多くの力が必要になります。例えば、風船を思い浮かべてみましょう。新しい風船は少しの力で膨らませることができますが、何度も膨らませたり、時間が経って古くなった風船は、膨らませるのに力がいるようになります。これは、風船のゴムの弾性が変化したためですが、肺や胸郭も同様に、病気や年齢によって弾性が変化し、コンプライアンスも変化することがあります。
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緊急時に役立つ!? ジェット換気とは

- ジェット換気の仕組みジェット換気は、自力で呼吸が難しい人を補助する人工呼吸法の一つで、ジェット流と呼ばれる、勢いのある空気の流れを用いた換気方法です。この方法では、一般的な人工呼吸とは違い、短時間に高圧の空気を気道に送り込むことで、迅速かつ効果的に肺に空気を取り込みます。ジェット換気では、まず気管に挿入した細い管を通して、高速のジェット気流を肺に送り込みます。この時、高速の空気の流れが周囲の空気を巻き込む「エントレインメント」と呼ばれる現象が起こり、肺の中に十分な量の空気が取り込まれます。その後、圧力が弱まるタイミングで自然に息が吐き出される仕組みになっています。従来の人工呼吸に比べて、ジェット換気は短時間での換気が可能なため、緊急性の高い状況や、胸部に損傷がある場合などにも用いられます。また、気管切開などの処置を行わずに、口や鼻から管を挿入するだけで行えるという利点もあります。しかし、ジェット換気は高度な技術を必要とするため、適切な知識と経験を持った医療従事者によって行われることが重要です。
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胸腔ドレナージ後のリスク:再膨張性肺水腫

- 胸腔ドレナージとは私たちの肺は、「胸腔」と呼ばれる袋状の空間に包まれています。通常、この空間には少量の液体があるだけで、肺は自由に膨らんだり縮んだりして呼吸をしています。しかし、病気や怪我などによって胸腔内に空気が溜まったり(気胸)、通常よりも多くの液体が溜まったり(胸水)、血液が流れ込んでしまったり(血胸)することがあります。これらの異常事態が起こると、肺は圧迫されてしまい、十分に膨らむことができなくなります。その結果、息苦しさを感じたり、呼吸が速くなったり、場合によっては唇や指先が青紫色になるチアノーゼといった症状が現れることがあります。このような状態を改善するために、胸腔に溜まった空気や液体、血液を体外に排出する処置が必要になります。それが「胸腔ドレナージ」です。胸腔ドレナージでは、胸部に小さな穴を開け、そこからチューブを胸腔内に挿入します。そして、このチューブを専用の装置に接続することで、胸腔内の空気や液体、血液を体外に排出します。胸腔ドレナージは、呼吸困難を引き起こす様々な病気の治療に役立つ重要な処置です。
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逆比換気法:重症呼吸不全の切り札

私たちは普段、無意識に呼吸をしていますが、息を吸う時間と吐く時間は同じではありません。一般的には、息を吸う時間に対して、吐く時間は約2倍と言われています。これは、機械を使って呼吸を助ける人工呼吸の場合でも同様で、多くの場合はこの自然な呼吸のリズムを参考に換気が行われます。しかし、肺の機能が著しく低下し、呼吸困難に陥っている患者さんに対しては、息を吸う時間と吐く時間の比率を逆転させた「逆比換気」と呼ばれる方法が用いられることがあります。これは、通常の呼吸とは逆に、息を吸う時間を長く、吐く時間を短くすることで、肺の中に新鮮な空気をより多く取り込み、血液中の酸素濃度を高めることを目的としています。逆比換気は、重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの治療において、肺の機能改善効果が期待されています。しかし、一方で、肺への負担増加や血圧低下などのリスクも伴うため、患者さんの状態を慎重に観察しながら、適切な設定で実施する必要があります。