ダメージコントロールサージェリー

けが人へ医療

命を脅かす危険な圧迫:腹部コンパートメント症候群とは

お腹の中は、重要な臓器が数多く詰まった身体の大切な空間です。通常、この空間内は一定の圧力で保たれていますが、何らかの原因で圧力が異常に高まってしまうと、「腹部コンパートメント症候群」と呼ばれる危険な状態に陥ることがあります。腹部コンパートメント症候群は、交通事故による強い衝撃や、お腹の中で起こる出血、あるいは激しい炎症などがきっかけで発生します。これらの原因によってお腹の中の圧力、つまり腹腔内圧が急激に上昇し、血管や臓器を圧迫してしまうのです。圧迫された血管は血液をうまく送り出すことができなくなり、酸素や栄養が全身に行き渡らなくなります。その結果、呼吸が苦しくなったり、血圧が低下したり、さらには腎臓などの臓器が正常に機能しなくなるなど、生命の危機に直結する重篤な症状を引き起こします。腹部コンパートメント症候群は、早期発見と迅速な治療が極めて重要となる病気です。
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ダメージコントロールサージェリー:外傷治療の最前線

- 戦闘の知恵から生まれた医療戦略ダメージコントロールサージェリー(DCS)という言葉をご存知でしょうか。これは、元々は戦闘で損傷を受けた艦船を速やかに応急処置し、沈没を防いで港まで持ち帰るための軍事用語でした。それが今、医療の現場で、生命の危機に瀕した外傷患者を救うための戦略として確立しつつあります。戦闘現場では、一刻を争う状況下で、限られた資源と人員で最大の効果を上げる必要があります。そこで重要となるのが、ダメージコントロールの考え方です。これは、損傷のすべてを完全に修復しようとするのではなく、まず致命的な損傷箇所を迅速に処置し、機能を最低限回復させることを優先する考え方です。この考え方を医療に応用したのがDCSです。外傷を負った患者、特に出血を伴う重症患者は、時間との闘いとなります。従来の手術のように、損傷のすべてを完璧に治療しようとすると、時間ばかりが経過し、患者の状態が悪化してしまう可能性があります。そこでDCSでは、まず生命に関わる重篤な出血を最優先で止血し、呼吸と循環を確保します。そして患者の状態を安定させてから、改めて詳細な検査や手術を行うのです。このように、DCSは戦闘の現場で培われた迅速かつ効率的な対応の原則を、医療の現場に応用した革新的な戦略といえるでしょう。