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逆比換気法:重症呼吸不全の切り札

私たちは普段、無意識に呼吸をしていますが、息を吸う時間と吐く時間は同じではありません。一般的には、息を吸う時間に対して、吐く時間は約2倍と言われています。これは、機械を使って呼吸を助ける人工呼吸の場合でも同様で、多くの場合はこの自然な呼吸のリズムを参考に換気が行われます。しかし、肺の機能が著しく低下し、呼吸困難に陥っている患者さんに対しては、息を吸う時間と吐く時間の比率を逆転させた「逆比換気」と呼ばれる方法が用いられることがあります。これは、通常の呼吸とは逆に、息を吸う時間を長く、吐く時間を短くすることで、肺の中に新鮮な空気をより多く取り込み、血液中の酸素濃度を高めることを目的としています。逆比換気は、重症の肺炎や急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの治療において、肺の機能改善効果が期待されています。しかし、一方で、肺への負担増加や血圧低下などのリスクも伴うため、患者さんの状態を慎重に観察しながら、適切な設定で実施する必要があります。
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救命の砦!救急室開胸とは?

救急医療の現場では、患者さんの容体が急激に悪化し、一刻を争う事態に遭遇することがあります。まさに時間との戦いであり、迅速かつ的確な判断と行動が求められます。その中でも、重症の心臓血管患者さんに対して、救命の最終手段として選択されるのが『救急室開胸』です。これは、手術室への搬送が困難なほど患者さんの状態が深刻な場合に、救急室で緊急に開胸手術を行うという、極めて高度な医療行為です。救急室開胸は、心臓や大動脈などの重要な臓器に損傷があり、一刻の猶予も許されない状況で行われます。例えば、心停止状態の患者さんに対して心臓マッサージなどの蘇生処置を行っても効果がない場合や、大動脈解離などで心臓や肺に圧迫が加わっている場合などが考えられます。このような緊迫した状況下では、医師や看護師をはじめとする医療従事者は、それぞれの専門知識と技術を駆使し、一丸となって患者さんの救命に全力を尽くします。救急室開胸は、まさに医療チームの総合力が試される場と言えるでしょう。しかし、救急室という限られた環境下で行われる開胸手術は、手術室で行う場合と比べてリスクも高くなります。そのため、患者さんの状態やリスクを慎重に判断し、最善の治療方針を決定する必要があります。
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命を脅かす病気:急性呼吸促迫症候群とは

- 急性呼吸促迫症候群とは急性呼吸促迫症候群(ARDS)は、肺に大量の水分がたまり、血液中の酸素が不足してしまう、命に関わる深刻な病気です。私たちの肺は、無数の小さな空気の袋、「肺胞」でできています。ARDSを発症すると、この肺胞が炎症によって傷つけられ、十分に機能しなくなります。その結果、血液中に十分な酸素を取り込むことができなくなり、呼吸困難に陥ります。ARDSは、肺炎や敗血症などの特定の病気にかかった後、または重度の怪我をした後に発症することがあります。ARDSは、集中治療室での治療が必要となる重篤な病気であり、場合によっては人工呼吸器による治療が必要となることもあります。ARDSの治療には、酸素吸入や人工呼吸器による呼吸の補助、炎症を抑える薬剤の投与などがあります。また、ARDSの原因となる基礎疾患の治療も重要です。ARDSは重篤な病気ですが、早期に発見し適切な治療を行えば、回復の可能性は高まります。
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いざという時の備え!AEDを知ろう

- AEDとはAEDは、Automated External Defibrillator(自動体外式除細動器)の略称です。これは、心臓が突然停止してしまった際に、電気ショックを与えることで心臓の正常なリズムを取り戻すための医療機器です。心臓が止まってしまうことを「心停止」といいますが、これは、心臓のポンプ機能が何らかの原因で停止し、血液を全身に送ることができなくなる状態です。心停止は、心臓発作や溺水、感電、事故など、様々な原因によって引き起こされる可能性があります。AEDは、この心停止状態の人に電気ショックを与えることで、心臓の動きを正常に戻すことを試みるための機器です。AEDは、医療従事者でなくても使用できるように設計されており、音声ガイダンスやイラスト表示に従って操作することができます。AEDは、街中や駅、学校、公共施設など、多くの人が集まる場所に設置されています。もしも目の前で人が倒れ、意識がない、呼吸をしていないなどの心停止の兆候が見られた場合は、ためらわずにAEDを使用することが重要です。迅速な対応が、救命の可能性を高めることに繋がります。
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災害時の対応:軽症者「walking wounded」とは

大きな地震などの災害が起こると、多くの人が被害に遭い、怪我をして病院へ運ばれる人が増えます。病院では、限られた薬や道具、医者や看護師で多くの人の治療をしなければなりません。このような時、怪我の程度に応じて治療の順番を決める「トリアージ」が行われます。このトリアージで、怪我の程度が軽く、自分で歩いて病院まで来れる人を「walking wounded」と呼びます。walking woundedは、命に関わるような怪我ではありませんが、骨折や切り傷、打撲など、適切な処置が必要な場合があります。しかし、大規模災害時には、walking woundedは、自分で移動できる能力があるため、他の重症患者に比べて治療の優先順位は低くなります。そのため、医療機関の負担を減らすために、walking woundedは、可能な限り、自分で応急処置を行う、または、医療機関以外からの支援を受けるなどの対応が必要となります。災害に備えて、応急処置の方法を学んでおくこと、自宅に救急箱を用意しておくことは、walking woundedとして、自分自身の安全を守るために非常に大切です。
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命を救うAED:電気ショックで心臓を蘇生

電気ショックは、まるで眠ってしまった心臓を揺り起こすように、電気の力で心臓を再び動かすための処置です。人間の心臓は、体中に血液を送り出すポンプのような役割を担っており、規則正しいリズムを刻んで収縮と拡張を繰り返しています。しかし、病気や事故など、様々な原因によってこのリズムが乱れてしまうことがあります。心臓が本来のリズムを失い、震えるようにけいれんを起こしてしまう状態を心室細動と呼びます。心室細動が起こると、心臓は血液をうまく送り出すことができなくなり、命に関わる危険な状態に陥ります。この心室細動を止め、心臓の動きを正常なリズムに戻すために用いられるのが電気ショックです。電気ショックによって心臓に電気刺激を与えることで、乱れた電気信号をリセットし、心臓が再び正常なリズムで動き出すように促します。
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知っておきたい医療用語:片肺換気とは?

- 片肺換気とは片肺換気とは、文字通り、左右どちらか片方の肺だけを使って呼吸をする状態を指します。普段私たちが何気なく行っている呼吸は、左右両方の肺を使っていますが、様々な理由で片方の肺だけが機能し、呼吸を行わなければいけない場合があります。片肺換気になってしまう原因は大きく分けて二つあります。一つは、怪我や病気などによって、意図せず片肺換気の状態になってしまう場合です。例えば、交通事故などで胸部に強い衝撃を受けると、肺が損傷し、空気が漏れてしまうことがあります。これが片方の肺だけで起こると、その肺は膨らんだり縮んだりすることができなくなり、結果として片肺換気の状態になってしまうのです。また、肺炎などの病気によって、片方の肺が機能しなくなる場合もあります。二つ目は、手術や治療のために、意図的に片肺換気の状態を作り出す場合です。例えば、肺がんの手術では、がんに侵された肺の一部、もしくは全体を切除することがあります。その際、手術する側の肺に麻酔薬を集中させ、機能を一時的に停止させることで、安全に手術を行うことがあります。片肺換気は、健康な状態であれば、もう片方の肺だけで呼吸を補うことができるため、すぐに命に関わるような状態ではありません。しかし、長時間にわたって続く場合は、体に負担がかかり、呼吸困難などの症状が現れる可能性もあります。そのため、片肺換気になった原因を特定し、適切な処置を行うことが重要です。
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いつもと違う?要注意!奇異呼吸を見分ける

私たちは普段、息を吸ったり吐いたりすることを意識せずに生活しています。これは呼吸が、生命維持に欠かせない非常に重要な働きでありながら、通常は無意識のうちに行われているからです。しかし、体に病気や怪我などが生じると、この呼吸に異常が現れることがあります。これを「奇異呼吸」と呼びます。奇異呼吸は、呼吸の回数、リズム、深さなどが通常とは異なる状態を指します。例えば、息を吸うのが苦しい、呼吸が速い、呼吸のリズムが乱れるといった症状が現れます。これらの症状は、肺炎や喘息などの呼吸器疾患だけでなく、心不全や糖尿病など、様々な病気が原因で起こる可能性があります。普段は意識することの少ない呼吸ですが、その状態は体の健康状態を反映する重要なサインです。そのため、自分自身や周りの人の呼吸にいつもと違う様子が見られた場合は、すぐに医療機関に相談することが大切です。早期発見と適切な対応によって、重症化を防ぐことができる場合も少なくありません。
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有機リン中毒と時間との闘い:エージング現象

- 有機リン中毒の仕組み有機リンは、農薬や殺虫剤など、私たちの身の回りで広く使用されている化学物質です。これらの物質は、作物を害虫から守ったり、衛生環境を保つために役立っていますが、人体に取り込まれると、健康に深刻な影響を及ぼす可能性があります。私たちの体の中には、神経伝達物質と呼ばれる、体からの指令を伝える役割を担う物質が存在します。その中でも、アセチルコリンは筋肉の動きや内臓の働きを調整する重要な役割を担っています。有機リンはこのアセチルコリンを分解する酵素「アセチルコリンエステラーゼ」の働きを阻害してしまうのです。通常、アセチルコリンは神経から分泌された後、役割を終えるとアセチルコリンエステラーゼによって分解されます。しかし、有機リンが体内に入ると、リン酸基がアセチルコリンエステラーゼにくっついてしまい、酵素は正常に機能することができなくなります。その結果、分解されずに残ったアセチルコリンが神経を過剰に刺激し続け、様々な中毒症状を引き起こします。これが、有機リン中毒の根本的なメカニズムです。
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気管気管支洗浄:人工呼吸器管理の重要ポイント

- はじめに病気や怪我などによって、自力で呼吸をすることが難しい患者さんにとって、人工呼吸器は、その命をつなぐために欠かせない医療機器です。人工呼吸器は、肺に空気を送り込み、呼吸を助けるという重要な役割を担っています。しかし、人工呼吸器を使用するにあたっては、注意深く管理を行わなければ、合併症のリスクが高まる可能性があります。特に、気道分泌物の貯留は、肺炎などの深刻な呼吸器合併症を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。そこで重要となるのが、「気管気管支洗浄」という処置です。これは、気管や気管支内に溜まった分泌物を洗い流し、清潔な状態を保つことで、合併症のリスクを低減することを目的としています。今回は、この「気管気管支洗浄」について、その詳細な方法や効果、注意点などを詳しく解説していきます。
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命を守る気道確保:気管切開とは?

- 気管切開の目的気管切開とは、呼吸が困難になった際に、命を繋ぐために行われる重要な手術です。 この手術は、様々な原因で気道が塞がったり狭くなったりして、十分な呼吸ができなくなった場合に実施されます。私たちの体には、鼻や口から吸い込んだ空気を肺に届けるための気道と呼ばれる器官があります。しかし、病気や事故などによってこの気道が塞がれてしまうと、空気の通り道が狭くなり、呼吸が苦しくなります。さらに重症化すると、自力での呼吸が困難になり、生命の危機に瀕することもあります。このような状況において、気管切開は非常に有効な手段となります。気管切開では、首の前方にある気管軟骨という部分に小さな穴を開け、そこから直接チューブを挿入します。これにより、鼻や口を通らずに、肺に直接空気を送り込むことが可能になります。気管切開は、一時的な呼吸の補助として行われる場合もあれば、長期にわたって呼吸管理が必要な場合にも行われます。手術後は、チューブを通して呼吸の管理を行いながら、原因となった病気の治療やリハビリテーションなどを進めていきます。
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隠れた危険!横紋筋融解症とは?

- 筋肉の病気、横紋筋融解症とは私たちの体を支え、動かすために欠かせない筋肉。実は、この筋肉で構成される細胞が壊れ、血液中に流れ出すことで発症する病気があります。それが「横紋筋融解症」です。まるで、身体の土台が崩れてしまうかのような、大変深刻な病気です。一体なぜ、このようなことが起きるのでしょうか? 実はその原因は、私たちの身近に潜んでいます。例えば、激しい運動や運動不足、肉体的負荷の高い労働などが挙げられます。また、交通事故などによる強い衝撃や、圧迫なども原因の一つです。さらに、薬の副作用によって発症するケースもあるため、注意が必要です。横紋筋融解症は決して他人事ではありません。過度な運動や肉体労働の後、筋肉に強い痛みや脱力感を感じたら、注意が必要です。また、尿の色が赤褐色になるなど、いつもと違う体の変化にも気を配りましょう。 日頃から適度な運動を心がけ、栄養バランスのとれた食事を摂ること、そして十分な休息をとることが、この病気を予防するために大切です。
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多発外傷の重症度を評価する:外傷重症度スコアの解説

- 外傷重症度スコアとは外傷重症度スコア(ISS)は、交通事故や転落事故などによって、一箇所だけでなく身体の複数の部位に怪我を負った、いわゆる多発外傷の患者さんの状態を評価するための指標です。1974年にベイカーという医師たちによって考案され、その後もより正確に評価できるように改良が重ねられてきました。このスコアは、患者さんが負った怪我の重症度を数値化することで、医師が患者さん一人ひとりに最適な治療方針を決定するのに役立ちます。怪我の程度を客観的な数値で表すことができるため、医師間での情報共有や治療方針の決定がスムーズに行えるようになるというメリットもあります。ISSは、人体を頭部・頸部、顔面、胸部、腹部、四肢、体表の6つの部位に分け、それぞれの部位で最も重症な怪我に対して、1点(軽傷)から5点(致命傷)までの点数がつけられます。そして、最も点数が高い部位が2つ以上ある場合は、そのうち点数の高い上位2つの部位の点数をそれぞれ2乗して足し合わせることで、総合的な外傷重症度スコアを算出します。例えば、頭部に重症な怪我(5点)を負い、その他に腕の骨折(3点)などの怪我を負った場合、ISSは5の2乗と3の2乗を足した34点となります。ISSが15点以上の場合、重症多発外傷と判断され、救命救急センターでの集中的な治療が必要となります。ISSを用いることで、患者さんの予後、つまり将来的な回復の見込みを予測することも可能になります。スコアが高いほど、後遺症が残ったり、最悪の場合、亡くなってしまうリスクが高くなるということが統計的に示されています。このように、外傷重症度スコアは、多発外傷の患者さんの治療方針決定や予後予測に非常に役立つ重要な指標と言えます。
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外傷重症度スコア:救命の可能性を評価する

- 外傷重症度スコアとは事故や災害現場において、一刻を争う状況下では、限られた情報と時間で傷病者の重症度を正確に判断することが極めて重要です。そのために用いられるのが外傷重症度スコアと呼ばれる指標です。外傷重症度スコアは、意識レベル、呼吸状態、血圧、脈拍といったバイタルサインや、外傷の程度などを数値化し、総合的に評価することで、傷病者の状態を客観的に把握し、救命の可能性を予測します。このスコアによって、医療従事者は現場での治療方針の決定や、搬送先の医療機関の選定などを迅速かつ適切に行うことができます。従来、医療現場では医師の経験や勘に頼った判断が行われることも少なくありませんでした。しかし、外傷重症度スコアを導入することで、経験の浅い医師でも一定の基準に基づいた判断が可能となり、医療現場全体における治療の質の均一化が期待できます。さらに、集積されたスコアデータは、医療現場における研究や改善活動にも役立てられます。過去の症例データと比較分析することで、より効果的な治療法の開発や、医療体制の改善に繋げることが可能となります。このように、外傷重症度スコアは、多くの命を救うために重要な役割を果たしており、医療現場において欠かせない指標と言えるでしょう。
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外傷性窒息: 圧迫による見えない脅威

事故と聞くと、自動車同士がぶつかる様子や、高いところから落ちてしまう様子を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。もちろん、交通事故や転倒は重大な事故です。しかし、事故には、火災や水難など、様々な種類があります。そして、これらの事故で忘れてはならないのが、事故による怪我や衝撃によって呼吸ができなくなってしまう「外傷性窒息」という危険です。外傷性窒息は、事故によって胸やお腹を強く圧迫されることで、肺に空気が入らなくなり、呼吸困難に陥る状態を指します。例えば、工場などで機械に挟まれたり、工事現場で足場が崩れて体の一部が挟まれたりすることで起こることがあります。また、階段で転倒して将棋倒しになったり、雪崩や土砂崩れに巻き込まれたりするなど、私たちの身近にも危険は潜んでいます。外傷性窒息は、一刻を争う危険な状態です。事故現場では、まず、周囲の安全を確保し、直ちに救急車を要請しましょう。そして、可能であれば、二次災害を防ぎながら、呼吸がしやすい体位を保つなどの応急処置を行うことが重要です。
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命に関わる危険な気胸: 開放性気胸とは?

- 開放性気胸とは開放性気胸は、胸部に開いた傷口から空気が胸腔(肺の周りにある空間)に直接入り込むことで、肺が圧迫され収縮してしまう状態を指します。通常、私達の肺は胸腔内の陰圧と呼ばれる、肺の外側からの圧力によって膨らんだ状態を保っています。しかし、交通事故や転倒、刺傷などによって胸部に開いた傷口から空気が入り込むと、この陰圧が失われてしまいます。その結果、肺は自ら膨らむことができなくなり、息苦しさや胸の痛みといった症状が現れます。開放性気胸は、傷口が大きいほど、また、空気が入り込む量が多いほど重症化する傾向があります。 場合によっては、傷口から胸の中で音がする、呼吸困難に陥る、顔色が悪くなるなどの症状が出ることもあります。このような症状が現れた場合は、直ちに医療機関に連絡し、指示を仰ぐ必要があります。
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命を救うカウンターショック:その役割と仕組み

心臓は、全身に血液を送るために休むことなく動き続けています。この動きは、電気信号によって精密に制御されており、規則正しいリズムを刻んでいます。しかし、様々な要因によってこの電気信号が乱れ、心臓のリズムが異常をきたすことがあります。これが不整脈です。不整脈の中には、生命にかかわるほど危険なものも存在します。例えば、心室細動は心臓の心室が細かく震え、血液を送り出すポンプ機能が停止してしまう恐ろしい状態です。また、心房細動は、心臓の上部の部屋である心房が小刻みに震え、血液がうまく流れなくなることで、脳梗塞などのリスクを高める不整脈です。これらの深刻な不整脈に対して、心臓の動きを正常に戻すために用いられる治療法の一つが、カウンターショックです。カウンターショックは、電気ショックを瞬間的に心臓に与えることで、乱れた電気信号をリセットし、正常なリズムを取り戻すことを目指します。カウンターショックは、主にAED(自動体外式除細動器)という医療機器を用いて行われます。AEDは、音声ガイダンスに従って操作するだけで、誰でも簡単に使用できるように設計されています。近年では、駅や公共施設など、様々な場所にAEDが設置されているのを目にする機会が増えました。いざという時に備え、AEDの設置場所を確認しておくことが大切です。
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災害現場で役立つSTART法:迅速な救命 triage

- START法とはSTART法とは、「Simple Triage And Rapid Treatment」の頭文字をとった言葉で、日本語では「簡易評価と迅速処置」という意味です。災害現場など、多くの負傷者が発生し、限られた医療資源の中でより多くの命を救うために、負傷者の緊急度を迅速に判定する方法です。地震や台風など大きな災害が起こると、同時にたくさんの負傷者が発生します。病院は、このような事態にすぐに対応できない状況に陥る可能性があります。このような緊急時において、一刻も早く治療をしなければ命を落としてしまう重症の人を、見た目などである程度判断し、治療の順番を決めることが重要です。START法では、まず歩くことができるかどうかで、治療の緊急性の高いグループと低いグループに大きく分けます。歩けないと判断された人には、次に呼吸ができているか、脈はあるかなどを確認し、さらにグループを細かく分けていきます。そして、呼吸や脈の状態などから緊急度が高いと判断された人から治療を開始するという手順になります。START法は、限られた医療従事者でも、迅速かつ効率的に負傷者の緊急度を判断し、多くの命を救うために有効な方法と言えるでしょう。
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静かなる脅威: 化学性肺炎を防ぐ

- 身近に潜む危険私たちは日々の生活の中で、様々な化学物質に囲まれています。掃除や洗濯に使う家庭用洗剤、塗料や接着剤、さらには衣類や家具などからも、知らず知らずのうちに揮発性の化学物質が放出されていることがあります。これらの化学物質は、吸入することによって、私たちの体内に侵入し、肺に炎症を引き起こすことがあります。これが「化学性肺炎」と呼ばれる病気です。化学性肺炎は、初期症状が風邪と似ているため、見過ごされてしまうことが少なくありません。咳や痰、息切れなどがみられますが、重症化すると、呼吸困難に陥り、生命の危険さえ伴うこともあります。特に、換気の悪い場所で化学物質を扱う際には、十分な注意が必要です。窓を開けたり、換気扇を回したりして、常に新鮮な空気を保つように心がけましょう。また、製品に記載されている使用上の注意をよく読み、適切な量や方法で使用することも大切です。化学性肺炎は、「静かなる脅威」とも呼ばれています。目に見えない危険から身を守るためには、日頃からの心がけと正しい知識が重要です。
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緊急事態!意識障害の基礎知識と対応

- 意識障害とは何か意識障害とは、周りの状況や変化を正しく理解することができず、自分の考えや気持ちを伝えることが難しくなる状態のことを指します。簡単に言えば、意識がはっきりしない状態のことです。例えば、呼びかけられても反応が鈍かったり、意識がもうろうとしていたりする状態が挙げられます。これは、風邪で高熱が出ている時や、睡眠不足の時のように、誰しも経験する可能性のある身近な状態とも言えます。しかし、意識障害はその状態自体が病気なのではなく、様々な原因によって引き起こされる症状であるという点に注意が必要です。例えば、脳卒中や頭部外傷などの病気や怪我によって脳がダメージを受けた場合に、意識障害が現れることがあります。また、低血糖や薬物の影響、重い感染症などが原因となることもあります。意識障害は、その程度によって、ぼーっとしている程度の軽い状態から、全く反応がない昏睡状態まで、様々な段階に分けられます。意識障害は命に関わる深刻な病気が隠れているサインである可能性もあるため、いつもと様子が違うと感じたら、すぐに医師の診察を受けるようにしましょう。
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災害と予防できる死

- 災害における「防げる死」とは大規模な災害が発生すると、多くの方が尊い命を失ってしまいます。自然の脅威の前では、人間の力はあまりにも小さく、避けられない別れも当然あります。しかし、その一方で、適切な処置を受けていれば、助かったかもしれないと考えられるケースも存在します。こうした「防げるはずだった死」を『予防できる死』と呼びます。災害医療においては、一人でも多くの命を救うために、この予防できる死を最小限に抑えることが非常に重要な目標となります。「予防できる死」には、大きく分けて二つの種類があります。一つ目は、災害発生直後に適切な処置を受けられなかったために亡くなってしまうケースです。例えば、倒壊した建物や土砂に巻き込まれた際に、適切な救助や応急処置が遅れてしまうことで、助かるはずだった命が失われてしまうことがあります。二つ目は、災害による負傷や体調不良が悪化し、重症化してしまうケースです。避難生活の長期化によるストレスや衛生環境の悪化、持病の悪化などによって、命を落としてしまう方が後を絶ちません。災害医療は、時間との闘いです。一刻も早く被災者を救助し、適切な医療を提供することが、多くの命を救うために不可欠です。そして、そのためには、私たち一人ひとりが、日頃から防災意識を高め、いざというときに適切な行動を取れるように備えておくことが重要です。
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意識清明期の重要性:頭部外傷を見逃さないために

- 頭部外傷と意識清明期頭部を強打するなどの外傷は、初期には軽い症状しか見られなくても、時間の経過とともに重篤な状態を引き起こす可能性があり、注意が必要です。 特に、頭蓋骨と脳の間に出血が生じる急性硬膜外血腫は、命を落とす危険性もあるため、迅速な対応が求められます。頭を強く打った直後、一時的に意識を失うことは珍しくありません。しかし、その後、一見すると回復したように見える期間が存在することがあります。 これが「意識清明期」と呼ばれるもので、急性硬膜外血腫の特徴的な症状の一つです。 この時期には、頭痛や吐き気、軽いめまいなどを感じることもありますが、多くの場合、周囲の人との会話も普通にでき、普段通りの様子を見せるため、周囲の人は安心してしまうことがあります。 しかし、意識清明期はあくまで一時的なもので、再び意識レベルが低下し、昏睡状態に陥ることがあります。 これは、脳内に出血した血液が徐々に溜まり、脳を圧迫することで神経機能に障害が生じるためです。 意識レベルの低下以外にも、麻痺や言語障害、瞳孔の異常など、さまざまな神経症状が現れることがあります。急性硬膜外血腫は、早期に発見し適切な処置を行えば、救命できる可能性が高い病気です。 頭部外傷後、たとえ一時的に意識が回復したように見えても、決して油断せず、医療機関を受診することが重要です。
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一時的ペーシング:緊急時の心臓のペースメーカー

- 一時的ペーシングとは心臓は、規則正しいリズムを刻んで血液を全身に送り出す、人間の体にとって非常に重要な臓器です。しかし、様々な原因によって、このリズムが乱れてしまうことがあります。心臓の鼓動が遅くなりすぎる状態を「徐脈」といい、放置すると、めまいやふらつき、意識消失、最悪の場合は心停止に至ることもあります。このような徐脈の状態に対して、心臓に電気的な刺激を与えて、正常なリズムに戻すための緊急処置が、「一時的ペーシング」です。一時的ペーシングは、主に、洞不全症候群や房室ブロックといった、心臓の電気信号の伝達に異常をきたす病気によって引き起こされる徐脈に対して行われます。一時的ペーシングには、体外式と経静脈式の二つの方法があります。体外式は、胸部に電極を貼り付けて、外部から電気刺激を与える方法で、救急現場などでよく用いられます。一方、経静脈式は、静脈からカテーテルと呼ばれる細い管を挿入し、心臓内部に電極を留置して電気刺激を与える方法で、より精密な治療が必要な場合に選択されます。一時的ペーシングは、徐脈による症状を改善し、生命を維持するために非常に重要な役割を果たします。
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院外心肺停止:知っておきたい知識と対策

- 院外心肺停止とは病院の外で、突然心臓と呼吸が止まってしまう恐ろしい状態を、院外心肺停止と言います。心臓は、全身に血液を送るポンプの役割を担っています。この心臓が停止してしまうと、血液は体の中を巡ることができなくなり、酸素も各臓器に届けられなくなります。酸素不足の状態が続くと、脳をはじめとする臓器に回復できないダメージが残ってしまいます。呼吸は、体内に酸素を取り込み、二酸化炭素を排出するために欠かせない体の機能です。呼吸が停止すると、体内に酸素が取り込めなくなり、心臓が止まっている状態では、心臓マッサージで心拍を再開させても、呼吸が再開しなければ、救命することはできません。院外心肺停止は、いつ、どこで、誰にでも起こりうる可能性があります。発生から数分間が生死を分ける非常に重要な時間であり、一分一秒を争う迅速で適切な処置が必要不可欠です。