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災害時の命の選別:トリアージとは?

- トリアージ多くの命を守るための選択と歴史トリアージとは、大規模な災害や事故などで、多数の負傷者や病人が発生した場合に、限られた医療資源を最大限に活用し、一人でも多くの命を救うことを目的とした、治療の優先順位を決める手順です。 この言葉は、フランス語で「選別する」という意味の「トリアージュ(trier)」が語源となっています。その歴史は古く、1800年代初頭のナポレオン戦争時代にまで遡ります。戦場では、一度に多くの兵士が傷を負うため、限られた軍医や医療品を効率的に活用し、より多くの兵士の命を救う必要がありました。そこで、負傷した兵士の状態を見極め、治療の緊急性を判断するトリアージが考案されたのです。その後、トリアージは戦争だけでなく、自然災害や大事故など、様々な場面で多くの命を救うための重要な手法として認識されるようになりました。 現代では、災害医療において欠かせないものとなり、世界各国で、医師や看護師などの医療従事者によって実践されています。また、トリアージの手法は、時代の変化や医療技術の進歩に合わせて、より多くの命を救えるよう、常に改良が重ねられています。
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静かに進行する脅威:多臓器障害とは

- 体の危機信号多臓器障害の概要多臓器障害(MODS)は、深刻な病気や怪我がきっかけとなり、まるで嵐のような過剰な炎症反応が体内で起こることで、複数の臓器が同時に機能不全に陥る恐ろしい病態です。以前は多臓器不全(MOF)とも呼ばれていましたが、近年では適切な治療によって臓器の機能が回復するケースも少なくないことから、多臓器障害(MODS)と表現されることが一般的になっています。MODSは、心臓、肺、肝臓、腎臓といった特定の臓器だけでなく、血液を固める機能、免疫機能、ホルモンの分泌など、体のシステム全体に影響を及ぼす可能性があります。MODSは、大きく分けて二つの段階に分けられます。最初の段階では、感染症や怪我に対する体の防御反応として炎症が起こりますが、この炎症が過剰になり、健康な組織までをも傷つけてしまうことがあります。そして、二つ目の段階では、過剰な炎症によって複数の臓器が機能不全に陥り、生命の危機に瀕します。MODSは、早期発見と適切な治療が極めて重要です。初期症状としては、発熱、呼吸困難、意識レベルの低下、尿量の減少などが挙げられます。MODSは、重症感染症、大怪我、大手術後などに発症するリスクが高く、特に高齢者や基礎疾患のある人は注意が必要です。MODSの治療は、その原因や重症度によって異なり、集中治療室での管理が必要となるケースも少なくありません。人工呼吸器による呼吸管理、血液透析による腎臓の機能を補う治療、循環系の安定化を図る薬物療法などが行われます。MODSは、命に関わる危険性の高い病気ですが、早期発見と適切な治療によって、臓器の機能回復が見込める場合もあります。体の異変に気づいたら、ためらわずに医療機関を受診しましょう。
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息苦しさのサイン:努力呼吸とは?

私たちは普段、特に意識することなく呼吸をしています。これは、横隔膜や肋間筋といった呼吸筋が自然と動いているからです。このような呼吸は、静かで楽に行われ、胸の中は常に一定の圧力よりも低い状態に保たれています。しかし、激しい運動をした後や、病気などにより、息苦しさを感じることがあります。このような時には、体はより多くの酸素を取り込もうとして、普段使わない筋肉まで使って呼吸を始めます。これが努力呼吸です。普段通りの呼吸では、息を吸うときには横隔膜が収縮し、息を吐くときには弛緩します。一方、努力呼吸では、横隔膜の動きに加えて、首や肩、胸、背中などの筋肉も動員されます。そのため、呼吸をするたびに、首や肩、胸、背中などが上下に大きく動くのが特徴です。努力呼吸は、体が酸素不足に陥っているサインです。したがって、努力呼吸が続く場合には、無理をせずに速やかに医師の診察を受けるようにしましょう。
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多臓器損傷:その危険性と対応

- 多臓器損傷とは交通事故などの大きな事故に遭ったり、災害に巻き込まれたりした際に、私たちの身体は大きな衝撃を受け、様々な傷を負うことがあります。中でも、一度に複数の臓器が損傷を受けてしまう「多臓器損傷」は、命に関わる危険性も非常に高く、一刻を争う深刻な状態です。多臓器損傷は、例えば交通事故で腹部を強く打ち付け、肝臓や脾臓、腎臓など、お腹の中にある複数の臓器が同時に傷ついてしまうような場合を指します。このような状態に陥ると、それぞれの臓器が正常に機能しなくなるだけでなく、臓器同士の連携も崩れてしまい、全身に悪影響が及ぶ可能性があります。多臓器損傷は、初期の段階では外見からはその深刻さを判断しにくい場合もあります。しかし、時間の経過とともに容態が急変する可能性も高く、早期発見と適切な処置が救命の鍵となります。そのため、交通事故などに遭った後、たとえ軽傷だと思えても、必ず医療機関を受診し、医師の診察を受けるように心がけましょう。
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知っていますか?トレンデレンブルグ体位のリスク

- 救急医療における体位とは?救急医療の現場では、一刻を争う状況の中、患者さんの状態を素早く把握し、適切な処置を行う必要があります。その際、患者さんの体位は、呼吸の確保、血液循環の維持、そして症状悪化の防止などに大きく影響を与えるため、非常に重要です。適切な体位をとることで、患者さんの身体への負担を軽減し、より効果的な処置を行うことができます。例えば、呼吸困難に陥っている患者さんに対しては、気道を確保するために頭を反らし、あごを持ち上げる体位が有効です。この体位をとることで、舌根沈下による気道閉塞を防ぎ、呼吸を楽にすることができます。また、ショック状態の患者さんに対しては、足を高く上げた体位をとることで、心臓への血液還流量を増やし、血圧の低下を抑制することができます。一方、骨折などの怪我を負っている患者さんに対しては、患部を動かさないように固定し、安静を保つ体位が重要です。むやみに動かしてしまうと、症状が悪化したり、さらなる怪我に繋がったりする可能性があります。このように、救急医療における体位は、状況に合わせて適切に選択することが非常に重要です。状況判断を誤り、不適切な体位をとってしまうと、患者さんの容態を悪化させてしまう可能性もあるため、注意が必要です。
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命を守る水分補給:脱水症状とその対策

- 脱水とは何か私たちの体は、成人であれば約60%が水分でできており、この水分は体中に栄養を運んだり、体温を調節したりするために非常に重要な役割を担っています。呼吸や皮膚からの蒸発、汗、そして尿として、私たちは常に水分を体外に排出しています。健康な状態を保つためには、失われた水分をこまめに補給し、体内の水分量を一定に保つ必要があります。しかし、様々な原因で水分補給が追いつかなくなったり、体内の水分が過剰に失われてしまうと、体内の水分バランスが崩れ、脱水症状を引き起こします。脱水症状は、軽度であれば、のどの渇き、めまい、疲労感などを感じます。さらに症状が進むと、頭痛、吐き気、意識障害などが現れ、最悪の場合、命に関わる危険性もあります。特に、乳幼児や高齢者は、自分で水分補給をすることが難しいため、脱水症状に陥りやすいと言われています。また、気温の高い時期や激しい運動後なども、多くの汗をかきやすく、注意が必要です。日頃から、こまめな水分補給を心がけ、脱水症状を予防しましょう。
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多発外傷:生死を分ける重症度の高い外傷

私たちの体は、頭と首、胸、お腹、骨盤、そして腕や足といったように、いくつかの部分に分けて考えることができます。交通事故などで強い衝撃を受けると、これらの複数の場所に同時に重い怪我をしてしまうことがあります。このような、複数の部位に及ぶ深刻な怪我のことを「多発外傷」と呼びます。例えば、車に乗っていて事故に遭い、頭を強く打ち付けてしまったとしましょう。同時に、足の骨も折れてしまったとします。この場合、頭の怪我だけでも、足の骨折だけでも、入院が必要な重症となる可能性があります。しかし、多発外傷では、それぞれの怪我に加えて、複数の怪我による影響が重なり合い、さらに命の危険が高まってしまうのです。多発外傷は、交通事故だけでなく、高いところからの落下や、激しいスポーツなどでも起こる可能性があります。複数の部位に強い衝撃が加わるような場合には、特に注意が必要です。もしもの場合は、速やかに救急車を呼ぶなどして、適切な処置を受けるようにしましょう。
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ダメージコントロールサージェリー:外傷治療の最前線

- 戦闘の知恵から生まれた医療戦略ダメージコントロールサージェリー(DCS)という言葉をご存知でしょうか。これは、元々は戦闘で損傷を受けた艦船を速やかに応急処置し、沈没を防いで港まで持ち帰るための軍事用語でした。それが今、医療の現場で、生命の危機に瀕した外傷患者を救うための戦略として確立しつつあります。戦闘現場では、一刻を争う状況下で、限られた資源と人員で最大の効果を上げる必要があります。そこで重要となるのが、ダメージコントロールの考え方です。これは、損傷のすべてを完全に修復しようとするのではなく、まず致命的な損傷箇所を迅速に処置し、機能を最低限回復させることを優先する考え方です。この考え方を医療に応用したのがDCSです。外傷を負った患者、特に出血を伴う重症患者は、時間との闘いとなります。従来の手術のように、損傷のすべてを完璧に治療しようとすると、時間ばかりが経過し、患者の状態が悪化してしまう可能性があります。そこでDCSでは、まず生命に関わる重篤な出血を最優先で止血し、呼吸と循環を確保します。そして患者の状態を安定させてから、改めて詳細な検査や手術を行うのです。このように、DCSは戦闘の現場で培われた迅速かつ効率的な対応の原則を、医療の現場に応用した革新的な戦略といえるでしょう。
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危険なサインを見逃すな!チェーンストークス呼吸とは?

- 呼吸の異変、チェーンストークス呼吸とはチェーンストークス呼吸とは、呼吸のリズムと深さに異常がみられる呼吸パターンのことです。健康な状態では、呼吸は一定のリズムと深さを保っていますが、チェーンストークス呼吸では、浅く速い呼吸から始まり、次第に呼吸が深くゆっくりとなっていきます。そして、再び浅く速い呼吸に戻り、最終的には数秒から数十秒にわたって呼吸が停止する「無呼吸」状態になります。この、呼吸が徐々に速く深くなり、その後遅く浅くなって無呼吸に至るというサイクルを繰り返すのが、チェーンストークス呼吸の特徴です。チェーンストークス呼吸は、心不全や脳卒中、脳腫瘍などの病気によって脳の呼吸中枢が障害されることで起こると考えられています。また、モルヒネなどの薬剤の影響で現れることもあります。チェーンストークス呼吸がみられる場合は、背景にある病気が進行している可能性があります。そのため、速やかに医療機関を受診し、適切な検査や治療を受けることが重要です。
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脳死判定と人形の目現象

- 人形の目現象とは「人形の目現象」とは、意識がない状態の人に頭を素早く動かした際、本来であれば頭と一緒に動くはずの眼球が、反対方向に動いてしまう現象を指します。通常、意識がはっきりしている状態であれば、頭を左右に動かしても、視線を一点に固定するために眼球は頭と同じ方向に動きます。しかし、意識がない状態では、この眼球運動の調整機能がうまく働かなくなるため、頭を動かした方向とは逆の方向に眼球が動いてしまうのです。まるで、人形の顔を傾けると目が反対側に残るように見えることから、「人形の目現象」と名付けられました。この現象は、主に脳幹の機能低下を示唆していると考えられています。脳幹は、呼吸や循環など生命維持に不可欠な機能を司っており、意識レベルの調整にも深く関わっています。そのため、人形の目現象が見られる場合、脳幹が何らかの影響を受けている可能性が考えられます。ただし、人形の目現象が見られたとしても、必ずしも重篤な状態であるとは限りません。深い睡眠中や、意識障害の程度が軽い場合は、健康な人でもこの現象が見られることがあります。また、アルコールや睡眠薬などの影響下でも、同様の現象が起こることがあります。人形の目現象が見られた場合は、他の症状や状況も考慮しながら、総合的に判断する必要があります。
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致死的3徴とは:重症外傷における危険な兆候

- 致死的3徴の概要事故や災害で大きな怪我を負った時、命に関わる深刻な状態に陥ることがあります。医学の世界では『致死的3徴』と呼ばれるものがそれにあたります。これは、一般的に死のサインとして知られる『瞳孔反応の停止』『呼吸の停止』『心臓の停止』の三徴とは全く異なるものです。致死的3徴は、重症外傷後に現れる『低体温』『アシドーシス』『凝固異常』の3つの状態を指します。 これらの状態が重なると、生存率が著しく低下してしまうため、一刻を争う迅速な処置が必要となります。まず、『低体温』とは、文字通り体温が低下した状態を指します。大量出血や体温の低下する環境下では、体が冷えやすく、低体温に陥りやすくなります。低体温になると、心臓、脳、血液の循環などの機能が低下し、生命の危機に繋がります。次に、『アシドーシス』は、血液が酸性に傾いた状態です。呼吸不全やショック状態になると、体内で酸素がうまく取り込めなくなり、血液中に酸が溜まりやすくなります。アシドーシスは、心臓の機能低下や意識障害を引き起こし、最悪の場合、死に至ることもあります。最後に、『凝固異常』は、血液が固まりにくくなる状態です。大怪我や手術などにより大量出血が起こると、血液の凝固因子と呼ばれる成分が消費され、体が本来持つ止血機能がうまく働かなくなります。その結果、出血が止まらず、生命の危機に直面することになります。このように、致死的3徴はそれぞれが独立した危険因子であると同時に、互いに悪影響を及ぼし合い、負の連鎖を引き起こす点に注意が必要です。迅速な処置と適切な治療によって、この負の連鎖を断ち切ることが、救命率向上に不可欠と言えるでしょう。
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酸素不足が招く危機: 低酸素症とは?

- 低酸素症の概要低酸素症とは、体内の組織が必要とする酸素量が不足している状態を指します。私たちが呼吸によって体内に取り込んだ酸素は、血液中の赤血球によって全身の組織へ運ばれ、細胞の活動に必要なエネルギーを作り出すために使われます。しかし、様々な要因で組織へ十分な酸素が供給されなくなると、細胞は正常な働きを維持することができなくなり、様々な症状が現れます。酸素不足の状態が続くと、軽度の場合には、 息切れや動悸、頭痛、めまい、疲労感などがみられます。 さらに酸素不足が進むと、 思考力や判断力の低下、意識障害、唇や指先が青紫色になるチアノーゼといった症状が現れ、最悪の場合は死に至ることもあります。低酸素症を引き起こす原因は多岐に渡ります。例えば、呼吸器疾患(肺炎や喘息など)によって肺での酸素の取り込みが阻害されたり、循環器疾患(心筋梗塞や狭心症など)によって心臓のポンプ機能が低下し、血液循環が悪くなることで組織への酸素供給が滞ることがあります。また、一酸化炭素中毒や高山病なども低酸素症の原因となります。低酸素症は、原因や重症度によって治療法が異なります。軽度の場合は酸素吸入を行いながら安静にすることで改善しますが、重症の場合は人工呼吸器による管理が必要となる場合もあります。日頃から、バランスの取れた食事や適度な運動を心掛け、禁煙するなど、生活習慣に気を配ることで、低酸素症を予防することができます。
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見えない脅威:低酸素脳症を防ぐために

私たちの脳は、思考や記憶、運動など、生命維持に欠かせない様々な機能を司っています。 脳が正常に働くためには、大量の酸素が常に供給されていることが必要不可欠です。しかし、心臓発作や呼吸困難、窒息などによって、血液によって運ばれる酸素が脳に十分に行き渡らなくなると、脳細胞が深刻なダメージを受けてしまうことがあります。このような状態は、低酸素脳症と呼ばれています。低酸素脳症の症状は、酸素不足の程度や時間によって大きく異なります。 軽度の場合は、集中力の低下や記憶力の低下、めまい、頭痛などがみられます。酸素不足が長く続くと、意識が朦朧としたり、体の動きが思うようにコントロールできなくなったりすることもあります。さらに重症化すると、意識を失ったり、痙攣を起こしたり、最悪の場合、命を落としてしまうこともあります。低酸素脳症は、一刻も早い対処が必要となる深刻な状態です。酸素不足が疑われる場合は、直ちに救急車を呼ぶなどして、医療機関を受診することが重要です。
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見えない衝撃:頭部外傷における対側損傷

私たちの脳は、硬い頭蓋骨に囲まれて守られています。まるで、大切な宝物を硬い箱に入れているように。しかし、強い衝撃が頭に加わると、この保護システムにも限界が生じます。頭部への強い衝撃は、交通事故や転倒、スポーツ中の事故など、様々な原因で起こりえます。このような衝撃を受けると、脳は頭蓋骨の内側に叩きつけられることがあります。また、たとえ頭蓋骨に損傷がない場合でも、急激な動きによって脳自体が損傷を受けることもあります。このような脳の損傷は、深刻な後遺症につながる可能性があります。意識障害や記憶障害、運動機能の低下など、その症状は多岐に渡ります。さらに、場合によっては、命に関わる重大な事態に陥ることもあります。日常生活において、頭部への衝撃は決して軽視できるものではありません。転倒のリスクが高い場所には注意を払い、スポーツ時には適切な保護具を着用するなど、日頃から予防を心がけることが重要です。
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救命の砦:大動脈内バルーン遮断とは

一刻を争う事態である重篤な出血性ショック状態の患者さんを救命する手段として、『大動脈内バルーン遮断』という治療法があります。これは、外傷による出血などで、命に関わるほどの大量出血が起きた場合に、緊急的に行われる極めて高度な医療技術です。出血性ショックに陥った場合、輸液や輸血といった標準的な治療がまず行われます。しかし、これらの治療にも関わらず、容体が改善せず心臓が停止する危険性が非常に高い場合には、最後の手段としてこの大動脈内バルーン遮断が選択されることがあります。大動脈内バルーン遮断は、カテーテルと呼ばれる細い管を脚の付け根の血管から挿入し、心臓近くの大動脈まで進めます。そして、カテーテルの先端にあるバルーンを膨らませることで大動脈を一時的に閉鎖し、脳や心臓などの重要な臓器への血流を確保することを目的としています。時間との闘いとなる緊急性の高い処置であるため、救命率は決して高くありません。しかし、この治療法によって、貴重な時間を稼ぎ、その間に止血などの根本的な治療を行うことが可能となります。まさに、一刻を争う事態における最後の砦と言えるでしょう。
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進化する医療:代用血液の可能性と未来

医療現場において、輸血は欠かせない治療法のひとつです。怪我や手術などで大量の血液を失った場合、失われた血液を補うことで命を救うことができます。しかし、輸血には解決すべき課題も存在します。まず、輸血に必要な血液は、健康な人からの献血によって賄われています。しかし、少子高齢化の影響もあり、献血協力者は年々減少しており、常に血液不足という深刻な問題を抱えています。さらに、輸血には感染症のリスクも伴います。血液製剤は厳密な検査を経て提供されていますが、未知のウイルスなどによる感染の可能性を完全に排除することはできません。また、血液型が一致する血液を輸血する必要があり、血液型によっては、より深刻な血液不足に直面しています。このような輸血に伴う様々な問題を解決するために、近年注目を集めているのが「代用血液」です。これは、人間の血液の代わりに使用できる人工的に作られた血液製剤のことです。代用血液には、大きく分けて二つのタイプがあります。一つは、酸素を運搬する機能に特化した「赤血球代替物」です。もう一つは、血液の量を増やし、血圧を維持する働きを持つ「血漿増量剤」です。これらの代用血液は、血液型や感染症のリスクを考慮する必要がなく、長期保存も可能なため、血液不足の解消や安全性の向上といったメリットが期待されています。現在、様々な研究機関や企業が、より安全で効果的な代用血液の開発に取り組んでおり、近い将来、輸血に代わる新たな選択肢として、医療現場に革新をもたらす可能性を秘めています。
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高所からの落下に潜む危険

私たちは日常生活で「落ちる」という言葉をよく使いますが、実は「落ちる」にも様々なケースがあります。その中でも、「落下」と「転落」は似ているようで異なる現象です。この二つの違いを正しく理解することで、より適切な事故防止対策を立てることができます。「落下」とは、高い場所から物が重力によって自由落下していく現象を指します。例えば、木からリンゴが落ちる、ヘリコプターから荷物が落ちるといった状況が「落下」に当てはまります。この時、物体は空中で何も触れることなく、重力の影響だけで落下していきます。一方、「転落」は、階段や斜面など、何かに接触しながら落ちていく現象のことを指します。例えば、崖を滑り落ちていく、階段で足を踏み外して落ちてしまうといった状況が「転落」です。転落する場合、物体は地面や壁などにぶつかりながら落下するため、落下距離が同じであっても、落下に比べて衝撃が大きくなる傾向があります。このように、「落下」と「転落」は物体と他の物との接触の有無という点で明確に区別されます。この違いを意識することで、身の回りの危険をより深く認識し、事故や怪我の予防に役立てることができます。
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知っておきたい創傷の種類と応急処置

- 傷とは何か傷とは、私たちの体が外からの力によって傷ついた状態を指し、怪我や損傷全般を表す言葉です。日常生活では、家の中や外出先など、至る所に危険が潜んでいます。例えば、段差でつまずいて転んだり、物にぶつかったりすることで、私たちは思わぬ怪我をしてしまうことがあります。傷の程度は、小さな切り傷から、皮膚が大きく裂けてしまうような重度のものまで様々です。軽度の傷であっても、適切な処置を怠ると、傷口から細菌が侵入し、化膿したり、熱が出たりするなど、感染症を引き起こす可能性があります。重症化すると、入院が必要となるケースもあり、命に関わる事態に発展することも考えられます。そのため、傷の種類や、状況に応じた適切な応急処置の方法について、日頃から正しい知識を身につけておくことが大切です。
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体外式肺補助:重症呼吸不全の最後の砦

- 体外式肺補助とは体外式肺補助(ECLA)は、病気や怪我などによって、自力で呼吸することが難しくなった場合に、肺の働きを一時的に代替する治療法です。私たちの体にとって、呼吸は生きていくために欠かせないものです。 息を吸うことで、肺の中に酸素が取り込まれ、血液によって体の隅々まで届けられます。 同時に、不要になった二酸化炭素は、息を吐くことで体外へ排出されます。 しかし、肺炎や事故などによって肺が正常に機能しなくなると、この呼吸によるガス交換がうまくいかなくなり、「呼吸不全」という状態に陥ります。 呼吸不全は、放置すると生命に関わる危険な状態です。このような場合に、肺の代わりに血液中の酸素と二酸化炭素を交換するのが、ECLAという治療法です。 ECLAでは、人工心肺装置と呼ばれる機械を用いて、血液を体外へ循環させます。 そして、人工肺によって血液中の二酸化炭素を取り除き、酸素を送り込みます。 こうすることで、肺が正常に機能していなくても、血液中の酸素濃度を保ち、体の各臓器へ酸素を供給することが可能になります。ECLAは、あくまで肺の機能を回復させるまでの間の補助的な役割を担うものです。 肺の機能が回復するまで、あるいは肺移植が可能になるまでの間、患者さんの命をつなぐための大切な治療法と言えるでしょう。
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侵襲後の体の反応:CARSって何?

私たちは日常生活の中で、小さなすり傷や切り傷、時には大きな病気や怪我など、様々な原因で身体に傷を負うことがあります。このような外部からの侵襲に対して、私たちの体は傷を治し、元の状態に戻そうと一生懸命働きます。この時、体内で起こる反応の一つに「炎症反応」があります。炎症反応は、傷ついた組織を修復し、細菌などの病原体から体を守るために非常に重要な役割を担っています。 例えば、指を切ってしまった場合、傷口は赤く腫れ、熱を持ち、痛みを感じます。これは、体内で炎症反応が起きているサインです。炎症反応が起こると、血管が広がり、血液の流れが活発になります。そして、血液中から白血球などの免疫細胞が患部に集まり、細菌や損傷した細胞を攻撃し、排除しようとします。しかし、炎症反応は、時に過剰に起こってしまうことがあります。例えば、花粉症は、花粉に対して免疫システムが過剰に反応し、くしゃみや鼻水などの症状を引き起こすアレルギー反応の一種です。また、関節リウマチなどの自己免疫疾患では、免疫システムが自分自身の細胞を攻撃してしまい、慢性的な炎症を引き起こします。炎症反応は、私たちの体を守るために必要な反応ですが、過剰に反応すると体に悪影響を及ぼす可能性もあります。日頃からバランスの取れた食事や十分な睡眠を心がけ、免疫力を高めておくことが大切です。
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救命の基礎知識:心肺蘇生法を理解する

- 心肺蘇生法とは心肺蘇生法(CPR)は、呼吸が止まり心臓が動いていない状態の人に対して行う、命を救うための緊急処置です。CPRは「一次救命処置」と「二次救命処置」の二種類に分けられます。一次救命処置は、その場に居合わせた人が、特別な医療器具を用いずに、すぐに始められる処置です。胸骨圧迫と人工呼吸を行い、心臓と呼吸を代行することで、救急隊が到着するまでの間、脳や臓器へのダメージを最小限に抑え、救命の可能性を高めます。一方、二次救命処置は、病院などの医療機関において、医師や看護師といった医療従事者が行う、より専門的な処置です。一次救命処置に加えて、電気ショックを与えるAED(自動体外式除細動器)の使用、薬剤投与、気管挿管など、より高度な医療行為を行います。心肺蘇生法は、適切に行われれば救命率を大幅に向上させることができます。そのため、正しい知識と技術を身につけることが重要です。日本赤十字社などの団体が、心肺蘇生法の講習会を定期的に開催していますので、積極的に参加することをお勧めします。
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心拍再開:救命率向上への鍵

- 心拍再開とは心臓が止まってしまい、血液を全身に送ることができなくなった状態、つまり心肺停止の状態から、再び心臓が動き出すことを心拍再開といいます。心臓は、全身に血液を送るポンプのような役割を担っています。この心臓が止まってしまうと、血液は体の中を巡ることができなくなり、酸素や栄養が体の隅々まで行き渡らなくなります。心肺停止の状態では、すぐに心臓を再び動かすための処置が必要となります。医療現場では、胸骨圧迫や人工呼吸などの心肺蘇生が行われます。そして、これらの処置によって心臓が再び動き出すことを、心拍再開と呼ぶのです。心拍再開を判断する際には、首筋や腕の付け根などにある動脈を触って、脈拍を確認します。脈拍が確認できた場合、心臓が再び血液を送り出し始めたと判断できます。これは、心肺蘇生が成功したことを示す重要なサインであり、患者さんの命を救うための大きな一歩となります。
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知っておきたい!クラッシュシンドロームの脅威

大地震や建物崩壊といった災害現場は、救助を待つ多くの人々にとって、過酷な環境となります。瓦礫の下敷きとなり身動きが取れない状態が長く続くことは、肉体的にも精神的にも大きな負担となり、命に関わる深刻なリスクをもたらします。その中でも特に注意が必要な症状の一つに、「挫滅症候群」と呼ばれるものがあります。「挫滅症候群」は、長時間、体の広い範囲を圧迫されることで引き起こされます。筋肉組織が損傷を受けると、ミオグロビンやカリウムなどの物質が血液中に流れ込みます。そして、救出されて圧迫が解放されると、これらの物質が心臓や腎臓などの重要な臓器に悪影響を及ぼし、場合によっては命を落とす危険性もあるのです。症状としては、意識障害、呼吸困難、不整脈、腎不全などが挙げられます。そのため、災害現場においては、安否確認を迅速に行い、救助活動を進めることが極めて重要です。また、「挫滅症候群」の可能性を考慮し、救出された方の容態を注意深く観察する必要があります。迅速な医療処置が、救命率の向上に大きく貢献します。
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建物の倒壊とクラッシュ症候群

日本列島は、複数のプレートが複雑に重なり合う場所に位置しており、世界的に見ても地震活動が活発な地域です。そのため、いつどこで大地震が発生しても不思議ではありません。巨大地震が発生した場合、家屋の倒壊や損壊による被害が懸念されます。建物が倒壊すると、そこに住む人々が瓦礫の下敷きになり、命を落とす危険性があります。また、家屋の倒壊は、直接的な被害だけでなく、二次的な健康被害をもたらす可能性も孕んでいます。その代表的な例が、「クラッシュ症候群」と呼ばれる状態です。クラッシュ症候群とは、地震などによって倒壊した建物や家具の下敷きになり、長時間、身体が圧迫された状態が続くことで発症する症候群です。長時間圧迫された筋肉が壊死し、有害物質が血液中に流れ出すことで、腎臓などの臓器に障害を引き起こす可能性があります。地震は、いつ、どこで発生するかわかりません。日頃から地震への備えをしておくことが重要です。家具の固定や避難経路の確認、非常持ち出し袋の準備など、できることから始めましょう。