乳酸アシドーシス：その原因と対策

乳酸アシドーシス：その原因と対策

乳酸アシドーシスとは

– 乳酸アシドーシスとは私たちの体は、普段活動するためのエネルギーを生み出す過程で、乳酸という物質を作り出しています。健康な状態であれば、この乳酸は主に肝臓で分解され、血液中の濃度は一定に保たれています。しかし、何らかの原因で乳酸の産生が過剰になったり、分解が追いつかなくなったりすると、血液中に乳酸が異常に蓄積し、体の状態が酸性に傾いてしまうことがあります。これが「乳酸アシドーシス」と呼ばれる病態です。乳酸アシドーシスは、大きく分けて「A乳酸アシドーシス」と「B乳酸アシドーシス」の2つのタイプに分類されます。A乳酸アシドーシスは、激しい運動や呼吸不全、心不全など、組織への酸素供給が不足することで起こります。一方、B乳酸アシドーシスは、糖尿病や肝臓病、薬剤などが原因で起こり、酸素供給とは関係なく乳酸が過剰に産生されたり、分解が阻害されたりすることで発症します。乳酸アシドーシスは、意識障害や嘔吐、腹痛などの症状を引き起こし、重症化するとショック状態に陥り、命に関わることもあります。そのため、早期に発見し、適切な治療を行うことが重要です。

主な原因：組織の低酸素状態

– 主な原因組織の低酸素状態

私たちの身体は、活動するためのエネルギー源として酸素を必要としています。呼吸によって体内に取り込まれた酸素は、血液によって全身の細胞へと運ばれ、そこで糖分を分解することでエネルギーを作り出しています。

しかし、病気や怪我などによって、身体が酸素不足に陥ることがあります。このような状態を「組織の低酸素状態」と呼びます。組織の低酸素状態では、細胞はエネルギーを作り出すために、酸素を必要としない「嫌気性解糖」という方法に切り替えます。

嫌気性解糖は、酸素を使わずに短時間でエネルギーを産生できるというメリットがある一方、乳酸という物質が生成されてしまうというデメリットがあります。通常、乳酸は肝臓で分解され、再びエネルギー源として利用されます。しかし、組織の低酸素状態が続くと、体内で作られる乳酸の量が増えすぎて、肝臓で処理しきれなくなります。その結果、血液中に乳酸が過剰に蓄積し、血液が酸性に傾く「乳酸アシドーシス」を引き起こしてしまうのです。

乳酸アシドーシスは、ショックや重症呼吸器疾患、DIC（播種性血管内凝固）など、様々な病態で発症する可能性があります。これらの病気は、いずれも組織への酸素供給を低下させ、細胞を酸素不足に陥れるという共通点があります。

ミトコンドリアの異常

– ミトコンドリアの異常

私たちの細胞の中に存在する、エネルギーを作り出す工場のような役割を担っているミトコンドリア。通常、酸素が十分にある環境下では、このミトコンドリアが効率的にエネルギーを生み出しています。しかし、酸素不足の状態ではなくても、ミトコンドリア自体に異常が生じることで、エネルギー産生が滞り、乳酸が溜まってしまうことがあります。これが、ミトコンドリアの異常による乳酸アシドーシスです。

例えば、血糖値が高い状態が続く重い糖尿病の場合、ミトコンドリアでのエネルギー産生がうまくいかなくなることがあります。また、生まれつき特定の遺伝子に変異があることで、ミトコンドリアが正常に機能しなくなる病気も知られており、これも乳酸アシドーシスの原因となります。

これらの病気では、ミトコンドリア内で行われる「酸化的リン酸化」という、効率的にエネルギーを生み出す仕組みが、うまく働かなくなってしまいます。すると、細胞はエネルギー不足を補うため、酸素を必要としない「嫌気性解糖」という方法でエネルギーを作り始めます。この方法は、効率が悪く、その過程で乳酸が大量に作られてしまうため、結果として血液中に乳酸が過剰に溜まってしまうのです。

その他の原因と治療

乳酸アシドーシスは、体内での乳酸の過剰な蓄積によって引き起こされますが、その原因は重症な病気から、生活習慣に関連するものまで様々です。ここでは、敗血症や心不全といった直接的な原因以外の要因と、その治療法について詳しく見ていきましょう。

まず、肝臓の機能低下が挙げられます。肝臓は、体内で生成される乳酸の処理を担う重要な臓器です。しかし、重い肝臓病などを患っていると、この機能が低下し、乳酸がうまく分解されずに体内に溜まってしまうことがあります。また、過度な飲酒も乳酸アシドーシスのリスクを高めます。アルコールは、肝臓での糖新生、つまり糖を作り出す働きを阻害します。その結果、血糖値が低下し、体はエネルギー不足を補うために、大量の乳酸を作り出してしまうのです。

治療においては、原因となっている病気への適切な対処が何よりも重要になります。例えば、ショック状態や低酸素血症の場合には、それらの状態を改善するための処置が最優先されます。肝不全には肝臓の機能をサポートする治療を、アルコール中毒には断酒や禁酒補助薬の使用といった、それぞれの病状に合わせた治療が必要となります。このように、乳酸アシドーシスは原因によって対処法が異なるため、自己判断せず、必ず医療機関を受診し、医師の指示に従うようにしてください。

まとめ

– まとめ

乳酸アシドーシスは、体内の乳酸が過剰に蓄積してしまうことで、血液が酸性に傾く病態です。この状態は、単なる疲労や運動不足が原因ではなく、生命に関わる深刻な病気のサインである可能性があります。

乳酸アシドーシスを引き起こす原因は多岐に渡ります。例えば、呼吸不全や心不全などにより、体が酸素不足に陥ることで発症することがあります。また、糖尿病の合併症や、一部の薬剤の副作用によって発症することもあります。さらに、ミトコンドリアと呼ばれる、細胞内のエネルギー産生工場が正常に機能しなくなることも、乳酸アシドーシスの原因となります。

乳酸アシドーシスは、放置すると意識障害やショック状態に陥り、命に関わる危険性があります。そのため、早期に診断し、原因に合わせた適切な治療を行うことが非常に重要です。